ヤナギノマイ(カサゴ目カサゴ亜目フサカサゴ科メバル属)の生態

東北以北、北海道、オホーツク海。浅い岩礁域に生息する。
北海道では本種、ハツメ、ガヤモドキ、エゾメバル、シマソイにマゾイなどは、なんとなくその他大勢というか、映画で言うとただの通行人的な存在に思える。
ヤナギノマイは北海道での呼び名で流通上もそうなのだが、実は現地に行くともっとややこしくなる。やたらたくさんとれるからだろうか、モヨ、モヨモヨとか、ときにエゾメバルと混同しているのか、ガヤ、ガヤガヤなんていうし、キゾイ(黄色いソイ)なんていうので実際に見にいくとシマソイだったり、本種であったり。北海道でメバルの仲間を調べると頭痛がしてくる。
ヤナギノマイの値段は?
庶民的な総菜魚で、ヤナギノマイのぶつ切りをジャガイモ、ニンジンなどと、みそ汁にしたものはまさに北海道のお袋の味。当然、高級魚ではない。高くて卸値1キロあたり1000円弱、ひどいときには一箱1000円なんてこともある。だいたい中型300グラムサイズで1尾300円が最高値。安いときには小売りで2尾一皿300円なんてことも。味がいいのだからもっと高くてもいいと思う。
「ヤナギノマイ」の寿司…旨さは炙ることでより一層、味が増す

このところ市場に魚が少なく、人もまばら。『市場寿司』でカッパ巻きを食べながら、「夏枯れ?」、「ザ・ピーナッツも死んじゃったな」、なんて無駄話していたら、北海道室蘭の市場人Fさんからケータイが。
「へんな貝がとれたんですけど。いりませんか?」
ありがたい! ボクの頭の中に引っかかっていた停滞前線がさっと消えて、真っ青な空が広がる。
翌日午後に、届いた荷が大きかった。貝は一個のはずなのに??? 開けてビックリ。なかは魚だらけ。ヤナギノマイがほとんどで、アイナメ、エゾメバルなどがまじる。肝心の貝は埋もれて、どちらが主役かわからない。ちなみに主役の貝はカシマナダバイで、見た目は地味だが、なかなか手に入らないものなのだ。
魚をバットに並べてみたら、ものすごく大きいのと、小さいのがある。これは〝釣ったもの〟かも知れないと、Fさんにケータイを入れる。
お礼のついでに、「あれ、Fさんが釣ったものでしょ?」と聞くと、「わかりました!?」とうれしそう。
「ここ(室蘭、苫小牧あたり)はちょっと沖に出るとソイやカレイが釣れます。魚の種類がビックリするほど多くて、面白いんですよね」
山盛りの魚を、さっそくたかさんと手分けしておろす。ソイの仲間は春から夏にかけて、(産卵ではなく)出産するのだが、産後の荒食いの時季らしい。思ったよりも脂があるし、身に張りもある。
三枚に下ろした身をさらしで丁寧に包む。午後六時を過ぎても明るい。店の前の床机に腰掛けて、ノンアルコールビールで乾杯。
自宅に帰り、ヤナギノマイを昆布締めにする。八王子のベテランすし職人、忠さんに教わったやり方で、皮付きのまま振り塩して、小一時間おき、皮と皮を合わせて、二枚ずつ昆布で巻く。
五十路の時間は高速で過ぎゆく。気がつくと翌日二時に。『市場寿司』に入ると、たかさんが開口一番、
「ヤナギノマイってのはあんまり味がない魚だね。そのままで食ってもモヨモヨって感じ」
「なにそれ? モヨモヨって」
「箱に〝モヨ〟って書いてあった」
味がはっきりしないで曖昧模糊。「モヨモヨって感じ」って、まさに言い得て妙。生がだめならと、皮目をあぶった焼霜造りと昆布締めを握ってもらう。
だんぜん焼霜造りがうまい。ヤナギノマイの旨さは皮とその真下にあり、あぶることで香ばしさが加わり、一層味に奥行きが出ている。
「たかさん、これはたまらんな」
「そうだろ。昆布締めもうまいけど、昆布の味に魚が負けるよね」
ところがどっこい、意外な展開が待っていた。切りつけた昆布締めをバーナーであぶってみたら、焼霜の二倍くらいうまいのだ。
「味の宝石箱やー! だねー」
たかさん、最近グルメ番組見過ぎ。あまりのうまさに止まらなくなる。最近、すしダネを握る直前、握った後にあぶるのが大流行なのだけど、確かにこいつはうまい。
午後三時過ぎに店のシャッターを下ろし、七輪を出し、たかさんが魚の半身を焼き始める。
「うちの(妻)が作った(ヤナギノマイ)塩麹漬け。うまいよー」
流行の塩麹漬けもなかなかいけます。たかさんは〝うちの〟が迎えに来るので本物のビールを開けて、ノンアルコールのボクと乾杯。
「たかさん、ヤナギノマイ、少し持って帰りたいな」
「だめだね。全部もらったもん」
「あれ、ボクがもらったもんだよ」
「北に向かってオレが、ありがとう、って言っといたから……」
「北海道には届かねーよ」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2012年8月1日号の掲載記事です。
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