「マハタ」の寿司…うま味が舌にまとわりついて離れない

「マハタ」の寿司…うま味が舌にまとわりついて離れない

梅雨前がいちばん好きだ。それほど暑くもなく、窓を全開にして、心地よい風を楽しめるのがいい。仕事仲間の女性達が薄着になり、ミニスカートになるのもうれしいね、なんてオヤジっぽいことを考えていたら、マハタのあらの唐揚げが出来上がった。まるで鶏肉のように締まったほっぺの肉をむさぼりながらベルギービールをやる。


見た目は悪いが味は最高。今年一番の白身だと言っても過言ではない。味の余韻で席を立つ気さえ奪われてしまう

ここではAさんとでもしておくが、近所に余暇は総て釣りという男がいる。やたらに釣った魚の添付ファイルをよこす。返信をしないと、ブツブツ文句を言われるので、面倒でも「すごい!」とか返信しておく。たまに出会ったら、釣り自慢最低一時間というやっかいな男でもある。

ある日の午後、たかさんと無駄話にふけっていたら。

「あのさ、この塊なにかわかる?」

「少し血合いが鈍くなっているけど、見事な白身だね。ハタかな」

「マハタだって。あんたにどうぞってA君が持って来たんだ」

「そうなんだ。でも小さな塊だね」

「まあね。五日目だからね」

「少し乾いてない」

「そりゃ、旅に出て帰ってこない人が悪いんじゃない」

最後の一塊は五かんの握りとなって、ボクの前に来た。見た目は悪いが味は最高だった。今年いちばんの白身だと言っても過言ではない。うま味が舌にまとわりついて離れない。すし飯とのバランスもいい。五かんがあっけないほどで、味の余韻で、席を立つ気になれなかった。

「うますぎだね!」

「ハタのいいところは丁寧に寝かせると、味が良くなるところだね」

さて、その直後に愛媛県への旅に出た。ボクの旅は魚貝類の食文化を発掘して、できるだけ画像に記録するというもの。今回は雨にたたられて、中三日で帰ってきた。

翌日、朝ご飯を食べに『市場寿司』ののれんをくぐると、また同じような白身の塊がある。

「これなーに?」

「マハタだよ」

「またまたマハタ」

「そう、マハタマハタマハタだよ」

卸売市場にある『市場寿司』のすしの値段は庶民的である。とてもマハタなどという超高級魚を仕入れられるわけがない。

「また、もらったのー」

「違うよ。たまにはヒラメ以外の白身もいいかなって思ってね」

「めずらしいね。打算的なたかさんが、こんな儲からないネタ仕入れるなんて。雨が降らなきゃいいけど」

この活けもいい味だった。一日目は食感と見た目のきれいさを楽しみ、三日目から味を楽しんだ。

「うまいだろ、やっぱり。でも前回A君が持って来た方が上だろ」

「大きさの問題じゃない?」

「両方とも二キロ前後だよ」

「産地の差かな?」

「違う。寝かせた時間の差なのさ」

数日後、『市場寿司』に行ったら、Aさん本人がお茶を飲んでいた。さすがにこれでは逃げられない。

「待ってたんだよー。早く座って」

「そういやー、久しぶりだね」

さて、話が長~いので、要約すると、ライトタックル、ひとつテンヤという釣り方で、千葉県外房から出船した。マダイは入れ食い状態で一キロ上は当たり前。いちばん大きいのは四キロもあったという。

「でもね、マハタは狙っても釣れないね。この前、持って来たのは五〇センチくらいだけど、船中一匹だけだったんだ。貴重なんだよ」

道糸0.6号、リーダー2号で、やりとりが繊細で面白いとか。それにしても話が長い。午後一時に来て、もう三時、一向に話は終わらない。話の中で四キロのマダイがいつの間にか五キロに成長している。本人だけがどんどん盛り上がってきた。
救いの神、Aさんの妻がやってきたのはあと数分で四時というとき。

「ウチのの守をさせちゃってすみませんねー。そら、父ちゃん帰ろ」

「はい!」

実にいい返事をして帰って行った。たかさんが大きなため息をつく。

「自慢話を聞くバイトでも雇うかい、たぶんいないと思うけど」

マハタ(スズキ目ハタ科マハタ属)

北海道、本州、四国、九州沿岸、少ないが琉球列島にも生息している。比較的浅い岩礁域にいて小魚などを襲う肉食魚だ。
標準和名のマハタは東京での呼び名。日本魚類学の父とされる田中茂穂は「マハタと云うのはハタ類中最も美味、又は最も多いことを示したものである」と述べている。和歌山県、三重県では「ます」、島根県など山陰では「かな」、山口県下関、福岡県では「あら」と呼ばれている。また体側の白い地に黒の縞模様があるので「しまあら」とも。また鰭の縁が白いので「はたじろ」と呼ぶ地域もある。
関東ではクエとともにハタの中でも突出して高価だ。基本的に3kg以上が高いが、以下のサイズでも超がつく高級魚。例えば先日買い求めた2kgサイズでキロあたり卸値が3500円だった。また、成長して縞模様が消えてしまっていた10㎏前後のものでキロあたり卸値が5000円もついていた。大形の10㎏サイズで1尾50000円、2㎏前後でも1尾7000円もする。これはあくまでも卸値だ。もしも料理店などで、薄造りで出てきたら、いくらにつくかは想像が及ばない。マダイ釣りなどでくると、主役を凌駕するほどうれしい魚ではないだろうか?

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2016年6月15日号の掲載記事です。

つり丸 -雑誌のネット書店 Fujisan.co.jp

https://www.fujisan.co.jp/product/3391/new/

雑誌つり丸(マガジン・マガジン)を販売中!割引雑誌、プレゼント付雑誌、定期購読、バックナンバー、学割雑誌、シニア割雑誌などお得な雑誌情報満載!

関連するキーワード


マハタ 寿司 グルメ

関連する投稿


人気の釣り技法”落とし込み釣り”を鴨川沖で試す!(第三新生合同丸)

人気の釣り技法”落とし込み釣り”を鴨川沖で試す!(第三新生合同丸)

「落とし込み」の釣りとは、九州・平戸発祥の釣りと言われ、現在では玄海灘などでもとても高い人気を誇る釣りだ。魚探で小魚(ベイト)の反応を見つけ、サビキでエサを付けて、その下についた大型魚を狙うという釣りである。「食わせサビキ」などとも呼び、大型青物からヒラメ、根魚まで小魚を捕食するあらゆる魚がターゲットと言ってもいい。


LTイワシ五目の仕掛け&泳がせ釣りの釣り方をご紹介します(鯨丸)

LTイワシ五目の仕掛け&泳がせ釣りの釣り方をご紹介します(鯨丸)

内房・館山湾のイワシの泳がせ五目が開幕した。生きたカタクチイワシを使用してヒラメ、マゴチほか各種根魚が手軽に釣れるとあって人気を集める釣りだ。「今年はイワシが獲れるのも遅くてようやく開幕しました。魚は入ってきているようで、これから最盛期になります」とは、館山港「鯨丸」の唐沢進船長だ。


「ワキヤハタ」の寿司…魚本来のうま味からくる甘味が後々脂に交代

「ワキヤハタ」の寿司…魚本来のうま味からくる甘味が後々脂に交代

春よ来い♪♪ 早く来い♪♪ たかさんが店の前の掃除をしながら歌う。オヤジが歌っても春は来そうにない。やっぱり可愛い女の子が歌わなきゃ、なんてボクの頭の中も少しだけ春かも知れない。春よ来い♪♪ 故郷からたっぷり生ワカメが届いた。深酒の後、ワキヤハタのあら汁を作り、ワカメを沈めたら、ぱっと新緑の色合いに。


狙いは青物グランドスラムと高級根魚!ゲームスタートだ(松栄丸)

狙いは青物グランドスラムと高級根魚!ゲームスタートだ(松栄丸)

南房布良沖のルアーゲームがいよいよ本格始動だ。ジギングやキャスティングにより、ヒラマサ、カンパチ、ワラサ(ブリ)の青物御三家をはじめ、マハタなどの根魚まじりで釣果上昇中なのだ。


「アオチビキ」の寿司…舌にねっとり絡みつきながら表面が溶けて甘い

「アオチビキ」の寿司…舌にねっとり絡みつきながら表面が溶けて甘い

今年の夏の大発見一、暑過ぎる昼下がりの熱燗はうまい。発見二、日焼けした若い女の子はとても色っぽい。発見三、熱中症になりかけたオヤジのオヤジギャグは受ける。発見四、例えばたかさんのように老齢のご婦人にもてるオヤジは、若い娘にはモテない。と言うことでアオチビキの塩焼きを肴に昼下がりの超熱燗をグイグイ。


最新の投稿


大型も数も期待大! 夏のルアータチウオタックルをご紹介(太田屋)

大型も数も期待大! 夏のルアータチウオタックルをご紹介(太田屋)

東京湾の夏タチウオがいよいよベストシーズンに突入だ。夏場は水深10〜40m前後と浅いポイントを攻めることが多く、釣りやすいので初心者が入門するには最適な時期。また、浅いということは手返しもよくなり、釣果も伸びやすい。


爆釣を体感せよ! 駿河湾のシイラ…今後はカツオやキハダも(福将丸)

爆釣を体感せよ! 駿河湾のシイラ…今後はカツオやキハダも(福将丸)

台風の影響によるウネリが大きい。次第に風が強まる予報もあった。ピーカン&ベタ凪ぎが最高とされるシイラ狙いには、決して好条件とは言えない。そんな取材日だった。


東京湾の人気魚カサゴをファミリーで手軽に楽しく釣ろう!(新健丸)

東京湾の人気魚カサゴをファミリーで手軽に楽しく釣ろう!(新健丸)

夏が来れば思い出すのは遥かな尾瀬だけではない。山上の湿地帯では水芭蕉かも知れないが、身近な所では紫陽花が見頃である。花をめでながらの山歩きも良いが海の上もホントに気持ちの良い季節。浅場の根魚釣りもベストシーズンの到来だ。


手軽に美味しいアジが狙える! 絶品東京湾のLTアジ(黒川丸)

手軽に美味しいアジが狙える! 絶品東京湾のLTアジ(黒川丸)

夏休みのこの時期、家族や友人とともに沖釣りを楽しむのにおすすめな釣り物の一つが東京湾のLTアジだ。


一束釣りも!ジャンボシロギスの穴場はココにあり!(山天丸釣船店)

一束釣りも!ジャンボシロギスの穴場はココにあり!(山天丸釣船店)

「小型のキスを狙えば、もっと数が出るんでしょうけど、良型に的を絞ってポイントを流しますから」と、話すのは久比里「やまてん丸」の臼井弘船長。そう、臼井船長が得意とする久里浜沖をメインとしたシロギス釣りは、ジャンボサイズが看板だ。


ランキング


>>総合人気ランキング
つり丸定期購読