ヒラマサ(スズキ目アジ科ブリ属)の生態

国内では北海道から九州、小笠原諸島、奄美大島に生息。琉球列島にはほとんどいない。インド洋、太平洋に部分的に生息。比較的温かい海域に多かったものが最近では青森県や北海道オホーツク沿岸でもとれている。これも温暖化のせいかも知れない。
標準和名のヒラマサは田中茂穂など魚類学者が、東京中央卸売市場(現築地市場)で採取した呼び名から来ている。西日本では「ひらそ」、「ひらす」、「ひらそうず」などは体が左右に平たく、「そ」「す」は磯のことで、磯(岩場)近くに多いためという意味合いからの呼び名が多い。また「まさ」、「まや」などとも呼ばれている。
関東のすし職人はカンパチやヒラマサを白身として扱っている。ヒラマサは夏の白身として非常に貴重である。
主な産地は長崎県から能登半島までの野本海沿岸。関東では伊豆諸島や銚子などから入荷してくる。最近では相模湾からも入荷するようになっていて、朝どれで鮮度がいいので人気が高い。
産卵期も稚魚の生態もブリに似ている。
産卵期はブリの最盛期が春なのに対して、初夏から夏。稚魚の姿もそっくり。
最近では生息域も重なる傾向にある。
そのせいか近年ハイブリットをよくみかける。
4月、5月初旬に相模湾で群れているものにもハイブリットがいるとのこと、味の違いなど、興味津々だ。
ヒラマサの値段は?
1㎏あたり卸値で1200~1800円ほど。だいたい2㎏~10㎏前後のものの値が高く。今回の主役10㎏は鮮度抜群だったので1尾卸値18000円もする。これを釣り落としたら、大変である。
さて、コロナの影響で魚が安い。
ところがブリと本種は意外にも値が落ちない。
自宅で料理をする人にも使いやすいからかも知れない。
特にヒラマサは未だに高い。
今回の10kg前後で1㎏あたり2500円もするので、1尾卸値25000円はこのご時世にすごいと思う。
ちなみに一般家庭用の切身1切れ小売価格で1200円だそうだ。
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ヒラマサの寿司…うま味も強いし、ほどよい酸味で食感もよい

昔、『市場寿司』にひょいと現れては、釣れた魚を持って来てくれていた海老名市在住の海老さんは昨年の春に極楽浄土に旅だった。体重三十キロ台でちょんまげ姿という不思議な出で立ちだったが、屈指の釣り名人だった。その海老さんが最近、たかさんの夢に現れたという。
「あれはワラサじゃないよ、マサだかんな。間違えんなよ」
と言って消えたらしい。
これは『市場寿司』に毎日のようにヒラマサを持ち込んでいるためかもしれない。その上、釣り師の方で持ち込んだ人もいた。こんなにヒラマサずくめでは、たかさんが夢に見るのも無理はない。でもなぜ海老さんが登場するのかがわからない。
考えてみると、七年近く前のことだった。たかさんが店を離れている間に海老さんが来たらしく、魚の半身がまな板の上にのせてあった。
「外房 海老」とだけ書いた紙が貼り付けてあったので、たかさんはよろこんでいただき、ホワイトボードに「わらさ」と書いたのだ。翌日、これを見た海老さんが言ったのが「あれはワラサじゃないよ、マサだかんな。間違えんなよ」だった。
「あのねえ、マサとワラサじゃ大違いなんだって、ライオンをネコと間違えるのより、もっとダメ」
とも言ったらしいが、なぜヒラマサがライオンでワラサがネコなのかが、たかさんにはわからない。確かにすし職人にとってはワラサもヒラマサもそんなに大きな違いはない。あえて言えばヒラマサの方が高いということくらいだろう。
ブリをネコというのは失礼だが、その差はかなり大きいに違いない。
実際、『市場寿司』の常連さんが「初めて釣りました」とたかさんにヒラマサを下ろしてもらいに来て、
「苦節十年もかかりました」
と、男泣きに泣いていたそうだ。
これは他人事ではない。今、釣りを一時中断しているが、二十年近く週末はいつも釣り、という状況だったボクはまだ一匹も釣り上げていない。一度がんばって外房勝浦にヒラマサ狙いで行ったものの、悲しいことにボクだけが釣れなかった。
さて、この日、ボクがたかさんに手渡したのもヒラマサである。
「これは十キロものを築地の達人が数日寝かしたものなんだ」
「やめてくれよ。今日も海老さんが出て来ちゃうじゃないかよ」
たかさんがネタケースの小田原産の二キロ級のものと、ボクが渡した十キロを二かんずつつけた。
「血合いの色なんかは今日水揚げの小田原ものがきれいだね。食感もいいし、ほどよい酸味だしね」
「これが客にわかればねー」
「二キロサイズがこんなにうまいなんて、思ってもみなかったよ」
「まあね。養殖のブリよりだんぜん気品があると思うよ。でも最近のお客は脂がないとダメってさ」
「十キロの方にはその脂があるよね。寝かせたせいかな、うま味も強いし、舌にねっとりとからむ」
「まあ十キロの方が上だね。血合いはくすんでるけど、うま味強いし、すし飯との馴染みが抜群にいい。ウチじゃ無理だけど、銀座辺りのすし屋なら一かん千円はとるだろうね」
「交互に食べてもいいね」
ウニをつまんで、またヒラマサにもどる。やはり十キロの方が圧倒的に強い存在感が感じられる。
二キロ、三キロは下ろしてすぐに食べる方がよくて、大物は寝かせた方がいいのかもしれない。
その夜、今度はボクの夢の中に海老さんが登場して、「オレを勝手に殺すな!」と言って消えて行った。
翌日たかさんに話すと、
「海老さーん、生きてるなら今度は十キロ級を釣ってきてくださいね」
と言い、西の空に両手を合わせた。
以上の記事は「つり丸」2017年7月15日号の掲載記事です。
ヒラマサの寿司…うま味爆発!鼻から噴射しそうだ

四月半ばに小田原からヒラマサ特大がやって来てから、ぴたりと魚が来なくなった。
コロナの影響なのか市場の釣り師も絶不調だ。
天才釣り師、クマゴロウもろくなものを持ってこない。
天気も悪いようだ。
近所の釣り名人もカイワリにタコばかり。
思わずたかさんに、「月並みだからいらないよね」
「月並みがいちばんいいのに」
最近、市場に魚がなくて、たかさん曰く、喉から手が出るくらいタコが欲しいという。
ましてやカイワリは、「欲しい以上」だったらしい。
たかさんは、月並みな魚でもいいけれど、ボクとしては刺激が欲しい。
ずしんと心に響くメガトン級のヤツ、来ないかなーと話していたら、「半身しか送れなくて」
「島根県浜田から本マ(クロマグロ)がやってきた」
山陰石見沖で獲れたマグロは、やや小さめのものだったが、実にうまかった。
ほっぺたが落ちるほどうまかった!でも、やっぱりマグロじゃつまらない。
こんな時に限って、小田原にも行けない。
「だれか魚を送って」とお願いしたら、故郷、徳島からマダイ、山口県から小振りのヒラマサとアマダイがやってきた。
宮崎からは三十キロのオオニベがていねいに調理されてやって来た。
うれしいけど、すしダネにはならない。
そこに小田原からまたヒラマサがやってきた。
今季三度目のヒラマサは食べ頃の十キロ上である。
「本を送っていただいたお礼です」
知り合いの魚屋さんからだった。
一度目に大きな衝撃を受けているので、二度目の特大にはさほど驚きはしないつもりだったが、うまいものは何度食べてもうまい。
たかさんに半身渡して、引きこもり生活をしている仲間にもお裾分けした。
運動不足なので、昼の公園散歩の後に、『市場寿司』でヒラマサの刺身でいっぱいやることにした。
これがなかなかいいのだ。店の前のオープンテラスに陣取って、山形の銘酒、栄光冨士の原酒をクイっとやる。
仕上げは握り二かんだけ。
これが外出自粛下の、いい気分転換になった。
相模湾では一月から三月にかけてブリの群れが回ってくる。
四月になると徐々にブリが少なくなり、五月にはヒラマサだらけになる。
ここ数年このパターンが続いている。
昔、こんなにブリやヒラマサが小田原周辺でとれたのだろうか?
老人に聞くと復活したのだという。
「いやんなるくらい食べたのに」
「うまいよね。飽きが来ない」
「たかさん、昔はヒラマサをつけるの嫌いだったよね。特に大きいの」
「まあね。普通に切りつけると、ぞろっぺになってかっこ悪いからね」
江戸前すし職人の「ぞろっぺ」はすしダネが大きすぎて、すし飯から大いにはみ出していることを言う。
「やっぱり腹身の方が脂あるね」
「脂あって食感もいいね」
そこに、たかさんの妻がやってきた。なぜか手にグローブふたつ。
「まさか、ボクと?」
「じゃないよ」
まさか、だった。
老夫婦が昼間っからキャッチボールするって、なんとなくエロイ気がする。
気持ちが悪いので大急ぎで退散した。
さて、ヒラマサが来て四日目、腹身が少しだけしか残っていない。
つけてもらったら、未だに透明感が残っていて、見た目にもキレイ。
しかも口の中に入れた瞬間からうま味が爆発して鼻から噴射しそうだ。
インパクトが強いのに、すし飯と馴染み、喉を通り過ぎて爽やかだ。
ふと嫌な予感がよぎったと思ったら、また妻の車がやってきた。
「まさか、またやるの?」
「日課だもん」
「後味が悪くなるからやめて!」
以上の記事は「つり丸」2020年6月1日号の掲載記事です。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
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コロナの影響で市場の魚が安いが、なぜかブリとヒラマサは値が落ちない