カラスザメ(ツノザメ目カラスザメ科カラスザメ属)の生態

北海道から高知県の太平洋沿岸、東シナ海、沖縄諸島。南半球のオーストラリア、ハワイ諸島、大西洋にまで広く生息。水深200m前後に多い。
相模湾や駿河湾で見られるカラスザメ科はヒレカタフジクジラ、ホソフジクジラ、カラスザメの3種だ。これ以外はまだ見ていない。カラスザメは神奈川県三崎での呼び名で全身が真っ黒だから。ただこんなに真っ黒で不気味な姿のサメを神奈川県藤沢では、なぜか「藤鯨」呼んでいたらしい。
このカラスザメ科の魚の棘に刺されると痛む、というのは日本海でも駿河湾でも聞いている。特に沼津市の底曳き網漁師さんからは刺されると強く痛むと聞いた。ただ実際に刺されてみると、死んでいたためかも知れないがズキズキする弱い痛みが2時間前後続いただけだった。
カラスザメの値段は?
残念ながら流通しないだけではなく、日本海などでは近縁種が大量に廃棄されている。駿河湾の底曳き網でも選別で出た本種を拾っていると、感謝されるくらいだ。ただ外道という呼び名の魚はいない。実際に食べてみると煮つけにして捨てがたい味だし、刺身も悪くない。一度お試しあれ。
「カラスザメ」の寿司…身にこくがあり、すし飯に負けない個性がある

それをたかさんに渡すと、
「オレはオタマジャクシなんか下ろさない。絶対にイヤだ」
イヤだ、イヤだと暴れて、下ろすのを拒否したのだ。
「カエルの子どもじゃないっての」
「カエルの子どもじゃなくても、イヤなものはイヤだっての」
仕方なく持ち帰り、自分で下ろした。ザラザラする皮を剥くのに手間取って、出直すとお昼になっていた。
たかさんの引きつったような顔を思い出して、念のために三枚に下ろして、生で食べてみたら、実にいい味だったのだ。最近、この深海性の真っ黒な魚の煮つけのうまさを知ったばかりだったが、まさか刺身までもがうまいとは思わなかった。
今回のそれは近所に住む、釣り名人・蛸さんが伊豆半島で釣ってきたもの。「ありがとう蛸さん」と言って、クーラーのなかから黒くて怪しい魚だけを選び、わけてもらった。
「こっちはいらないんすか?」
蛸さんが不思議そうに、本命のキンメダイを指さしたが断った。後で気がついたことだが「本命いりません」というのは、かなり失礼だったかも。それにそれに、この日、蛸さんはキンメダイを大釣りしていたのだ。
「すごい!」とか「見事です」とかも言い忘れた。
「ごめんね、蛸さん」。心の中でちゃんと謝ったのであった。
さてそれはまるでショッカー(古いかな)のごときものだった。魚体が真っ黒で棒状、目はエメラルドブルーをしている。全長は二十五センチ前後あるのだけど頭を切り落とし、皮を剥き、三枚に下ろすと、身は大人の小指くらいしかない。
ペーパータオルにくるんだのを、たかさんに渡して、刺身の味をみてもらう。血合い部分が赤く、刺身は決してまずそうには見えない。
「最初から下ろしてから持って来なよ。味見する気がおきねーよー」
イヤイヤ一切れ口に入れた。
「どう、悪くないでしょ」
「悪かーないけど、うまくもないって感じかな。やっぱり下ろす前の姿が浮かんでくる。ヤーな感じ」
ボクも右手人差し指にヤーな感じが。ずきずき痛むのだ。大慌てで皮剥きをして、最初尾の方からと思って皮を引っ張ったら、棘にチクリと触ってしまったのだ。このカラスザメ科の魚は漁師さんたちにとても嫌われている。その要因のひとつが背鰭の棘。刺されると痛むと聞いていたが、確かにずきずき痛い。
たかさんが、棒状の身を3つ合わせてつける。五尾で四かんにしかならなかったが、血合いが赤くて見た目は決して悪くない。
口に放り込むと、シコっとした食感があり、すし飯との馴染みこそよくないがいい味である。
「たかさんすごくうまいとは思えないけど、悪くないじゃない」
「悪かーねーけど、オレ魚は見た目で判断するからね」
「身にこくがあるというか、すし飯に負けない個性がある」
「あのさ、この魚の名前はなに?」
「カラスザメだよ」
「サメなの?こんなにちっこいのに、あのジョーズの仲間?」
「ジョーズとは遠い親戚って感じだね。でもサメには違いないし、真っ黒なのは深海にいるせいだよ」
絆創膏を貼った右手人差し指の痛みが強まったような気がする。
「たかさん、今日はこれで帰る」
手を振って店を出ようとしたら、
「蛸さんにカラスザメだけは釣らないでねって言ってね」
蛸さんにカラスザメの仲間が釣れたら、必ず持って来てきてくれるようにお願いしたばかり。危険だ。
「たかさん、こんど下ろしてくれたら百万円あげる」
「一億円くれてもヤだね」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2018年4月1日号の掲載記事です。
雑誌つり丸(マガジン・マガジン)を販売中!割引雑誌、プレゼント付雑誌、定期購読、バックナンバー、学割雑誌、シニア割雑誌などお得な雑誌情報満載!