「マコガレイ」の寿司…舌に触れた途端に甘味が味蕾を激しく刺激する

「マコガレイ」の寿司…舌に触れた途端に甘味が味蕾を激しく刺激する

たかさんは、最近ますます「つり丸」に登場する若い女性釣り師に夢中だ。「日焼けは大丈夫なのかな」とか、どことなくお父さん目線でもある。それなら一緒に釣りに行けば、というと、船がまるでダメなので「見送りに行きたい」と言い始めた。意外に一途なのかも。雨上がりの夕方、マコガレイの塩焼きを肴に泡盛のソーダ割り。


すし飯の甘味とあいまって、おいしさが口の中でぶわ、っとふくれあがる

昼下がりの『市場寿司』、店仕舞いを始めていた、たかさんに、

「これつけてね」

「はいはいはい!マコ♪♪」

「甘えてないで、はよつけなはれ」

「もっと歌わせろ」

それを渡すと、たんたんとつけて、たんたんと自分でもつまんで、しばし沈黙。「うーん」とうなって、

「うまいに決まってるだろー」

「産地での味の違いが知りたいわけ。がまんしてつきあいなはれ!」

この前持ってきたのは茨城県産、今回は宮城県産。始まりは四月中旬、福島の友人が宮城県仙台湾で釣り上げたのを送ってくれた。来週は大分県日出の名物「城下がれい」にするべきか。悩むよりも先に、銀行残高が急激に消滅しようとしている。
今回の宮城県産は築地場内の知り合いの店で四分の一買って、八千円。茨城県産は一キロ弱だけど限りなく一万円(税抜き)だった。

「なぜ、マコガレイってこんなに高いんだろうね。マコが憎い!」

「四月のはそんなによくなかったけど、味は合格だったしね」

「まあ試し釣りって言ってたから、宮城はこれからなんじゃない」

「ウチじゃ絶対仕入れらんねー」

「仕方ないね。築地で仕入れていくのは、銀座とか日本橋の有名店ばかりだよね。たかさんって一生ずーっと庶民派で終わるのよね」

昭和を代表する水産学者、安田富士郎の本に、「マコガレイは、北よりも南の産地の方が味がいい」とあった。気になって仕方ないので「じゃあ実際に試してみようか?」と始めたのだ。それと四月中旬に来た宮城県産が、産卵後のはずなのに予想外にうまかったのも気になった。
ちなみに東京の市場で一に千葉県内房、二に茨城県から宮城県の常磐・仙台湾などと言われている。瀬戸内海ものや大分県産は、取り寄せないと手に入らない。
考えてみると東京湾のマコガレイは、日本一高いのかも知れない。
昔、金沢八景、横須賀、品川とマコガレイ狙いで出ると、必ず最下位だったことを思い出す。「マコガレイはせっかちには釣れない」と言われたが、本当だろうか? 今なら欲に駆られて釣れないかも。

数日後、内房富津産、四分の一をたかさんに渡す。前回は裏側の腹の部分、今回は表側で背の部分だ。

「今回のがダントツだな」

「やっぱり江戸前がうまいのかも」

「ただ前回は四月下旬だったね」

舌に触れた途端に甘味が味蕾を激しく刺激、すし飯の甘味とあいまって、おいしさが口の中でぶわ、っとふくれあがる。それが鼻に抜けて、

「ぷわわわ~~ん、だ」

「なにがぷわわわ~~ん?」

食べてみればわかると言うと、たかさんも口に放り込んで、

「本当だ。ぷわわわ~~ん、だ」

「なんだろうねこの魅力って」

初夏を思わせる昼下がり、定年退職したばかりの釣り師、毎日日曜日さんがいたので、一かん分けてあげた。口に入れた途端に、顔がふやけたようになって、にたにた笑う。

「毎日、日曜日でよかった」

四分の一をすべてつけてもらったら、マコガレイはめちゃくちゃ高くても当然なのだ! と思った。
翌日は五百グラムサイズのマコガレイを持ち込み、つけてもらう。

「うまいけど、大きい方がもっと」

「うまいよなー」

そこに毎日日曜日さんがやってきて『つり丸』を広げた、

「茨城か宮城行ってきます」

「ボクは今週、大分と福岡でマコガレイを食べてきます」

そんな話をしている脇に、『つり丸』を真剣に見ている六十路がいる。

「たかさーん、何見てるの?」

「教えてあげないよ」

マコガレイ(カレイ目カレイ科マガレイ属)

北海道西岸から九州西岸の日本海・東シナ海沿岸、北海道南部から土佐湾までの太平洋沿岸、瀬戸内海の浅い砂泥地に生息。
産卵期の春に東京湾などでたくさんとれたので「真子鰈(まこがれい)」となったと考えている。要するに卵巣を抱えたカレイが江戸時代に好まれたのだ。口が小さく尖っているので島根県では「きつね」、食べると身に甘みがあるので瀬戸内海広島などでは「あまてがれい」と呼んでいる。
古くから関東では煮魚用とされていて、谷崎潤一郎をして嫌いと言わしめた。ただし、産卵期の子持ちの煮つけは非常にうまい。そのせいで古い食の本では、旬は冬から春となっている。ただし今や刺身用魚の頂点にいるので、旬はいちばん身に張りがあり、脂ののる晩春から夏だ。
魚河岸でいちばんの高級魚であるとともに、庶民的な魚でもある。なんだかわけがわからんという感じだが、冬から春には安くておいしい魚。晩春から夏にかけては高嶺の花なのだ。特に1キロを超えると、キロあたり卸値で1万円以上はする。ましてや座布団級だと値は天井知らず。今回の2キロ級で1キロあたり15000円。ということで、1尾で卸値30000円になる。

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2018年6月15日号の掲載記事です。

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