ハナフエダイ(スズキ目フエダイ科ヒメダイ属)の生態

体長30センチ前後になる南日本から熱帯域に生息する魚。東京都伊豆諸島や小笠原、鹿児島県、沖縄県などに多い。沖縄ではマチ類(ハマダイやヒメダイのこと)と一緒に釣れる魚として有名。
東京でもお馴染みの魚、小笠原で水揚げされるので地魚のひとつでもある。美しすぎてあまりおいしそうに思えないためか、市場での人気はイマイチ。
ハナフエダイの値段は?
値段は平凡で1キロあたり1000円前後。400グラムの平均的なもので卸値にして1尾400円といったところだ。
「ハナフエダイ」の寿司…外道扱いをされているが、驚く程うまい!

あまりの暑さに用がなくても『市場寿司』に、吸い寄せられてしまう毎日である。のれんをくぐると、たかさんが嫌な顔もせず、アイス緑茶を作ってくれる。これがうまい。
「来てるよ」
というので店の横に回ると、築地直送の発泡があった。
なかには小笠原の魚、旬のアワビなどが入っている。まずはたかさんにアワビを渡して、「酒蒸しにしてね」と言い、小笠原の魚のなかからヤマブキハタ、ハチジョウアカムツとハナフエダイをわたす。
「黄色に赤にピンクかよ。南の魚はあんまりうまそうに思えないね」
「南って言ったって、ここと同じ東京都の魚だよ。これ食べなきゃ江戸っ子じゃないでしょ」
「暑い時期には北国の魚がいいな」
「バカだな。北国の魚は冬のイメージでしょ。夏は南の魚がいいの」
そんなことを話していたら、ご近所のそば店店主で釣り名人の浅やんが通りがかり、
「まぁー、きれいな魚だねー。何このマカロンのような魚?」
「マカロンって、フランス菓子のマカロン?」
還暦を超えたオヤジからマカロンなどという言語が飛び出してくる、そんな時代なのだな、などと思っていたら、たかさんが、そのマカロンのような魚をひょいと持って店に入る。水洗いして、三枚に下ろす。血合い骨を抜いている。
「浅やん、釣り行ってる?」
「ああ、カツオかマグロね」
なんて、一言二言話して、振り返ったときにはもう手遅れだった。
「どうして皮引いちゃったの」
「普通、皮引くだろ」
「引いちゃいけない魚もある」
その最たるものがハナフエダイなのである。「今回は皮なしでね」と出てきた握りは見た目が最低だ。
ただ、発見もあった。ハナフエダイはフエダイ科でもヒメダイに近い魚だ。ただし少々水っぽい。そのため釣りの世界でも外道扱いをされている。それがこの時期、身が締まっていて、脂があるのか甘みがあり、驚くほどうまい。
午後になり、店じまいした『市場寿司』の前で冷えたビールを飲む。その肴につまむハナフエダイの刺身が、美味な魚として定評を得ているハチジョウアカムツにもひけをとらない。非常にうまい!
「明日も来るからね」
「何が?」
当然、ハナフエダイが来るのである。小笠原の魚は、夏は三、四日に一度、寒い時期だと一週間に一度しか築地に入荷しない。
翌朝、また築地便がきた。たかさん、「仕切り直しだ」と水洗い。三枚に下ろして、皮目に湯をかける。氷水に落として、さらしでしっかり水分を取る。見る間に、握り二かんが目の前に。「やはり皮が命」、きれい。口の中でほどよくすし飯と馴染む。飛び切りのうまさだ。
たかさんも、二、三かんつまみ。
「甘みは脂の、かな。皮にもうま味があるよね。すし飯に負けてない。すしダネとして上等だね。ああ、それに後味がいいや」
店の前を八王子最長老のすし職人、忠さんが通りかかったので声をかけ、アイス緑茶をお出しする。
「忠さん、小笠原行ったよね」
「行った、行った。三年くらい前かな。遠かったけど、よかったな。ハワイよりも楽しかったな」
ハナフエダイの味見をしてもらう。「うまいな」とうなずきながら旅話をしてくれる。小笠原では山に登ったり、海釣りをしたり、老人でも十二分に楽しめたのだという。
「そういや、朝、カナカナが鳴いとったな。暑いのはこれからって思うけど、秋はそんなに遠くねーな」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2013年9月1日号の掲載情報です。
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