「カワハギ」の寿司…甘く濃厚な液体状になった肝の脂がたまらない

「カワハギ」の寿司…甘く濃厚な液体状になった肝の脂がたまらない

肌寒さを感じるようになったとたん、無闇矢鱈に日本酒がうまく感じられる。夏の淡麗辛口系から、秋から冬の旨口の酒に替わった。こいつをぬる燗にして、秋の夜長にしみじみ人生を振り返る。アテはあぶったカワハギの肝と刺身。しめのとんこつラーメン食べなきゃ痩せるのだけどな〜。しみじみ反省。


肝の表面が溶けて液体状になって、そのこぼれ落ちた液体状の脂をすすると甘く、濃厚なうま味が舌の上ではじける

秋が深まると市場は活気づく。釣りものも増える頃だろうし、ついでに何を食っても矢鱈とうまい。

大阪まで一泊旅行に出かけて帰り間際にデパ地下に寄り、うまいもんを探す。探すほどもなく、特売していたのが、ちり用のハゲ(カワハギ)。小さなポン酢までついている。

帰宅して小鍋仕立てにし、酒は能登の銘酒。旨口の純米酒をぬる燗でやる、ハゲがうまい。最後にこれもデパ地下で買ったうどんでしめ、満足、満足!

想うと、新年を祝ったのが昨日のことのよう、なのに、もう鍋の恋しい季節になっている。むなしい。

翌朝、市場に行くと相変わらず元気いっぱいの釣り名人、昭島駅前の海鮮居酒屋『酒元』さんが大きな声で「おはよっす!」。

「最近、釣り行ってる?」

「毎週カワハギ通ってます。ワッペンまじりですけど、大漁っすよ」

いいな、若者は。秋の日にむなしさを感じるなんてことは、ないようだ。立ち話の最中に仲卸に並んだのが、明石海峡のミニカワハギ。

「ぼうずさん、それくらいっすね。釣っててまざるの。小さいんだけど、メチャうまいんすよ」

そう言われれば、買わないわけにはいかない。通りかかった、たかさんに「ほいよ」と渡すと仲卸のまないたに向かう。「〜皮をカワハギ、脱がせるのはかわいいお姉さんの服〜♪」朝からいやらしい歌を歌いながら、「薄皮むけるかな」と首を斜めに。

帰り際『市場寿司』に寄ると、

「これ、食べてみてよ」

小皿にカワハギの片身。味見するとなんとも言えずうまい。

「うまい。たかさんこれすごい!」

「そう? こっちも食べてみな」

今度は薄皮をあぶった片身で、確かにうまいが、カワハギのよさが、香ばしさに隠れてしまっている。

「たかさん、素直にいきましょ」

「素直にやってるじゃない。素直に考えたのが、これよ」

「薄皮引くのが面倒だったんじゃないの。ダメだよ、すし屋が手間惜しんじゃ」

「じゃあ、これはどうだ!」

身に肝を乗せて、上から直にあぶった握りが出てきた。

「おーー!モーレツ」

なんて五十路男はおののくのだ。

「まるでホタテの上にのったフォワグラみたいだろ」

どこでそんなことおぼえてきたのだ。目の前に置かれた途端に甘い香りが鼻を刺激する。肝の表面が溶けて液体状になって、そのこぼれ落ちた液体状の脂をすすると甘く、濃厚なうま味が舌の上ではじける。本体だって薄皮が香ばしく、身がほどよくしまって、シコっと心地よい。

「頭どつかれたような味や」

「どうして大阪弁!?」

「昨日まで大阪や」

さて数日後、定休日に三浦まで行っていた、近所の釣り名人浅やんが、巨大なカワハギを「ほい!」とむき出しでくれた。

「裏返してみな」

裏に薄すら墨の後が残っている。これぞ魚拓ものということか?

さっそくたかさんに握ってもらうと。大きな肝が乗り、まさに典型的なカワハギの握りの出来上がり。

「たかさん、これすごいな。こんなに身が膨らんでさ、味も濃いよね」

「そうかー? この前のミニの方がうまかったと思うな」

「そんなことはないよ。やっぱりカワハギは大きい方がうまいよ」

後ろ向きになり、今度は、こはだの仕込みを始めた、たかさん。

「♪カワハギは絶対ミニがいい。お姉さんのスカートもミニがいい〜」

「おいおい秋に色気づくのは紅葉だけで、ええんちゃう?」

カワハギ(フグ目カワハギ科カワハギ属)

北海道以南、東シナ海。浅い岩礁域にある砂地に生息。環形動物や貝などをエサとしている。昼に活動、夜に休息をとる、とても健全な日々を送っている。
和名は神奈川県三崎での呼び名で「皮をはいで料理するため」。大阪ではなんとも露骨にハゲ(禿げ)。ウマヅラハギを長ハゲ、カワハギを丸ハゲとも。「身ぐるみはぐ」に例えてバクチウチ(博打うち)。古くから秋においしいく、金になり「正月用の餅が買える」ということでモチハゲ(餅はげ)とは、なんともめでたい魚でもある。
フグの本場、大阪で季節前の秋に食べるのがちり鍋。出始めの大葉春菊に、徳島のスダチが定番で、市内のデパ地下で「てっちりのつなぎにはげちりでっせ」と鍋用のカワハギがずらりと並ぶ。
活魚も活け締めも、野締めもすべて高値となる。特に高いのが活魚。20センチ前後を見た目買い(水槽に泳いでいるのを選んで買う)で1尾1500円。活け締めでも900円くらいする。しかもこの値段は卸値なので、デパートなどの小売りを買うと、いくらになるやら。釣魚としては、かなりの難敵ではあるが、船宿通いしても元手がとれる魚なのである。

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2012年11月1日号の掲載情報です。

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