「タマカイ」の寿司…そして一週間、味は頂点に。これこそが熟成魚か

「タマカイ」の寿司…そして一週間、味は頂点に。これこそが熟成魚か

長野に出張していた友人が色とりどりのキノコ、リンゴにブドウをお土産にくれた。収穫の秋まさに来たれり、と感じながら、栗ご飯に、サンマ飯を大食い。とうとう体重が三桁に近づいてしまった。今夜は低カロリーのタマカイの湯引きで一杯だ。これなら体重増えないだろう?


四日目になるのにシコシコした食感がありじわりとうまい…そして一週間、味は頂点に。これこそ熟成魚というものなのかも知れない

故郷・徳島から大量のスダチが送られてきた。青いのは県外にも出荷するが、黄色く色づいたのは出荷しない。徳島県人は、これを炊きたてのご飯にたっぷりしぼりかけて食べる。徳島県人がもっとも秋を強く感じる瞬間なのだ。

秋めいたある日、市場を歩いていると、やっとサンマの入荷が本格的に。トラフグの横にわけぎの束。きれいなマダイ。蒲鉾の店の前に、おでん種を買う行列ができている。

その日、一緒に築地場内を歩いていた大阪堺の美しすぎる人妻が、

「めちゃめちゃ秋感じるやん」

なんてうれしそうにはしゃぐ。

大型のハタ類であるクエ、マハタが並んでいるのにも秋を感じる。

「秋本番だ」、なんて思いながら場内を歩いていると、ビックリするような魚を発見した。

当たり前だけど、普通、魚は横に寝かされて置かれている。なのに、その巨大魚は縦になって、ようするに店頭に飾られているのだ。

店の人に「これいくら?」と聞くと、「今日は土曜日だから安くしとくよ」で一キロ千七百円、重さ二十二キロでも、驚くほどの値段ではない。二十キロ超えのハタ類の値段としては安すぎるくらいだ。

尾鰭が丸い、黒い斑点、間違いない、これは沖縄の大物釣り師あこがれの魚。浦添のウミンチュウが三百キロを釣り上げたというアレだ。

購入したのはいいが、これからが戦いの始まり。『市場寿司』に配達してもらい撮影。とても解体できそうにないので、マグロ屋にお願いして、やってもらう。「なんだ、なんだ」と大勢のギャラリーが見守る中、マグロ屋はほんの十分足らずで見事に五枚下ろしに。

昼下がりの『市場寿司』で解体したばかりを刺身にして食べてみる。

「クエとかわらないな」

とマグロ屋が言った。

「クエは知らないけど、やっぱり大型のハタはうまい」

とたかさん。

ボクはポケットからスダチを取り出し、ぎゅっとしぼって塩で食べてみる。これがまたうまい。

「握ってみてよ」というと、マグロ屋が「待て、待て」とさらしを出し、四等分した身を包み、店の氷の冷蔵庫に納めた。「明日だな」。

あらをマグロ屋が大包丁で分解する。大鍋に昆布でだしを取り、湯引きしたあらを放り込む。野菜は大振りに切ったネギだけ。あらだけで市場人六人の鍋として十二分の量である。これがまたおいしい。

「クエとかわらないな」

とマグロ屋が言った。

あらについた身だけで、腹がいっぱいになる。冷えたビールがうまい。

翌日、やっと握りになって出てきた。築地で見つけて日曜日をはさみ四日目になるのにシコシコした食感があり、じわりとうまい。ここにすし飯がくるのだけど、残念なことに馴染みが悪い。非常にうまいが、握りとしては完成度が低い。

そして五日目。まだシコッとした食感が残り、うま味の方はより強くなっているようだ。そして、そして、一週間がたち、土曜日が来て味は頂点に達した。これで、おしまいとなる。これこそが最近流行りの熟成魚というものかも知れない。

「二十二キロを一週間で食べ尽くすなんて、マグロと変わらねーな」

とマグロ屋が言った。

確かにマグロと変わらない。大きい方がうまいし、値が張るし。

「あのさ、そろそろ魚の名前教えろよ。ボードに一週間も『幻のハタ』。お客だって知りたいだろ」

「あれ、言ってなかった? 忘れてた。ごめん、ごめん」

「またかい」

「じゃないよ。タマカイだ」

タマカイ(スズキ目ハタ科マハタ属)

小笠原諸島、鹿児島県、琉球列島以南に生息する。主に沖縄で見られる。サンゴ礁などにいる世界最大のハタで、3メートル、400キロの記録があるというが本当だろうか? 沖縄のウミンチュウが釣った記録は300キロであるという。
沖縄では大物釣りの王様とされているが、地元の呼び名は「あーらみーばい」でハタの中のハタという意味。標準和名のタマカイの意味はいろいろ調べているが、未だにわからない。しかも珍しい魚なので過去の記録も非常に少ない。沖縄では味がよく、成長も早いということで養殖が行われていて、流通するものとしては天然ものよりも多いのではないかと思われる。ちなみに養殖の本場は台湾であり、関東などで見かけるほとんどが台湾から輸入されたものだ。
関東では沖縄、台湾などの養殖ものが入荷してくる。国内のものは4〜5キロくらいが主で、台湾などのものは20キロを超えるものも多い。この20キロ以上のものは天然ものの可能性もある。値段は国内産でキロあたり4000円前後。台湾産で2000円前後。台湾産の20キロサイズで1尾40000円くらいになる。沖縄で300キロ級を釣っていただきたいものである。

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2013年11月1日号の掲載情報です。

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