「ハガツオ」の寿司…身の表面がトロリンととろける。うま味も豊か

「ハガツオ」の寿司…身の表面がトロリンととろける。うま味も豊か

五月病はあるが十月病はないと思っていたら、近所の釣り名人たちが、その十月病になってしまったようだ。みなそわそわ、外房に行こうか、伊豆に行こうか? 釣りものが多すぎてノイローゼ気味。ハガツオを塩に埋めて半月。塩出しして半月干して作った塩ガツオを削る。これを肴に酒を飲みながら、美味しい魚待ってるよー。


白っぽい身に、カツオに似た皮。この皮があぶられて、口に含むと実に香り高い。身の表面がトロリンととろける。うま味も豊か

九月になったばかりの頃、岩手県の釣り人の方から、「おもしろい魚が釣れました」と画像が送られてきた。これがハガツオだった。

「別にそちらでも珍しくないでしょ。昔から三陸のハガツオはよく関東に来ていましたから」

「でも長年釣りをやってますが、釣れたのは初めてで驚きました」

それはたぶん、小魚を追いかけている肉食魚なので主にルアーでねらうターゲットであって、めったに生エサの、例えば「はちがら(ムラソイ)」やクロソイをねらいには来ないからではないか、と思えた。

さて、秋真っ盛りである。田舎からスダチが、長野県からは松茸まで。

さて、九月十六日の午後。松茸を持って『市場寿司』ののれんをくぐったら基本的にお気楽に生きているはずの、たかさんが珍しくそわそわしている。盛んに外を見ている。

「今日、なんか変じゃない?」

「いやー、別にー」

握りを注文したお客に丼を、その逆もあり、お茶を出し忘れたり、みそ汁をこぼしたり。一時過ぎなのにネタケースのなかを整理し始める。

昼下がり、常連で釣り師のナギさんに、「もう閉めようと思ったんだけどね……」なんて言う。誰か来るんだろうか、絶世の美人とか。

ナギさんに、こはだ、スミイカ、サンマの酢じめ、布巾にくるんだものを二枚切りつけて、握って出す。

「たかさん、最後のそれ何?」

「ほうさん(ハガツオ)だけど」

「ボクにはくれなかったけど」

「そうかな、今日のおすすめだけど出さなかったかなー」

考えてみると、ボクがお昼ご飯に食べたのは、こはだ三かんに、鉄火巻き一本だけ。なにか変だとは思ったけど、ボクの大好物・ハガツオを出さない、は超おかしいと思うな。

ナギさんの前に置かれたのは、皮目をあぶったたたきである。これを口に放り込んだ途端に、

「後、あるだけ全部握って」

「だめでしょ。ボクにも二かん」

サバ科のカツオやソウダガツオ属、スマ、マグロ属を総称して「マグロ族」とする分類法がある。実はここにハガツオは含まれない。これはどうやらハガツオの身が白っぽく、赤身ではないからのようだ。

関東でも赤身ではなく、ブリやサワラと同様に売り買いしている。その白っぽい身に、カツオに似た皮。この皮があぶられて、口に含むと実に香り高い。そして身の表面がトロリンととろける。うま味も豊かだ。

「身がトロリン、トロリンだ」

思わず、ナギさんと「トロリン、トロリン」と二重唱、するくらいにうまい。ついつい一尾の四分の一をナギさんと食べ尽くす。二人してメタボな腹をなでなでして「天高くメタボオヤジ肥ゆる秋だ」と高笑い。

ハガツオはカツオ同様に秋には三陸から千葉県外房、相模湾まで下ってくる。「はてな、関東では釣れないの?」。釣り師のナギさんは釣ったことないという。ついでに近所の釣り名人達に聞いても、「釣ったことないよ」との返事。

まさか釣れないわけはない。「釣り師のみなさん待ってま~す」。

十月になってもハガツオは三陸沖にいる。どうやら南下は師走辺りか。今年は海が遅いようだ。

安くて美味なので『市場寿司』でも人気のすしダネに。メタボオヤジのボクも今年はたっぷり、十二分にハガツオの味を堪能できそう。

そしてまた昼下がりの『市場寿司』に寄ったら、いつも通りに常連さんがいて、たかさんが真っ赤なシャツを着てニコニコしている。

「すごい赤だね。買ったの?」

「若くて可愛い娘のプレゼント」

「わかった、敬老の日のだ。おじいちゃん長生きしてね、なんてね」

ハガツオ(スズキ目サバ科ハガツオ属)

北海道~九州南岸の日本列島周辺、屋久島、琉球列島。インド・西太平洋域に生息。
インド洋・西太平洋にいる魚でインド洋では非常に重要な食用魚。モルジブ諸島で作られている本種の鰹節を「モルジブフィッシュ」といい、スリランカカレーの材料になる。また生息域の最北部にあたる北海道南部、三陸などでまとまって揚がるのだが、これが関東に入荷してくる。これを塩漬けにして焼いて食べたり、煮つけにして食べていた。それで東京都では昔から「ほうさん(ハガツオ)」は庶民的な魚として人気が少なからず高かったようだ。
ちなみに古くは標準和名をキツネガツオ。関東では「ほうさん」、「とうさん」という。これは縦縞模様が江戸時代に流行した織物唐桟織の縞模様に似ているからだ。
残念ながら安い魚の代表格。関東では主に切り身用(魚屋さんなどで切り身で売られる)としてビックリするくらいに安い。例えばハガツオを好んで食べる九州でも、そんなに高くはない。卸値で1キロあたり500円くらい。2キロで卸値1尾1000円くらいだ。九州ではルアー釣りのターゲットとして人気が高いという。純粋に釣り味を楽しんでいただきたい、なー。

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2014年11月1日号の掲載情報です。

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