アカハタ(スズキ目ハタ科マハタ属)の生態

富山湾、山口県日本海側、九州北岸、伊豆諸島、小笠原諸島、相模湾~屋久島の太平洋沿岸、琉球列島、南大東島の比較的浅い岩礁域やサンゴ礁域に生息している。
ハタ科のなかでは小振りだが、色合いが美しいので明治末から大正初期に出た、有名な長崎のグラバー図譜にも現在と同じ標準和名、アカハタとして掲載されている。地方名も小笠原や伊豆諸島、徳島県南部の「あかば」、沖縄の「あかみーばい」と色合いの「赤」がつくものがほとんど。
東京都諸島部でたくさん揚がるので、関東のプロの料理人の世界ではもっともなじみ深い魚のひとつだ。築地場内には本種を必ず集めておくという仲卸が数軒あって、その多くが中華料理の店に送られる。古くは蒸し物や中華風の煮つけに使われていたが、最近では生食用に使われることが多くなっているようだ。また手頃な大きさなのですし店でも使われはじめたようで、このところ値段が高騰気味である。
青森県、宮城県などの東北太平洋側でも見つかっているが、相模湾・伊豆諸島以南、屋久島までの太平洋沿岸に多い。
日本海には希だとされているが、近年、富山湾、若狭湾、山口県でも水揚げされている。
一昨年、陸奥湾に行ったときに見たアカハタにはびっくりした。
アオハタもいたので陸奥湾に赤青揃い踏みだ。1980年代には相模湾の茅ヶ崎や小田原にもほとんどいなかった。
それが小田原ではカサゴよりもアカハタの水揚げが顕著になっている。
これは明らかに温暖化のためだと思われる。
温暖化といえば、本種に大きさも色合いも姿も似た魚にアカハタモドキがいる。
小笠原諸島ではアカハタ釣りに混じるが、銭州や八丈島での釣りには混じらない。
アカハタよりも水温の高い海域にいるのだ。これが銭州で釣れたら事件だ。
アカハタの値段
小振りの300g前後でキロあたり卸値2000円前後、もっとも使いやすい500g~1kgサイズだとキロあたり卸値3000円以上もする。今回登場する伊豆半島産の800gだと1尾で卸値2400円前後になる。
伊豆諸島や小笠原からの入荷が多い都内の市場では古くからの高級魚である。
相模湾や駿河湾での漁獲量が増えても、人気があるため一向に値段が落ちない。
小さくても1㎏あたり卸値で2000円前後、大きいと1㎏あたり卸値3000円以上する。
今回の主役、全長30cm、重さ0.4㎏ほどでも1尾卸値で800円だから決して安くない。
アカハタの釣り方・仕掛け
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「アカハタ」の寿司①… 白身なのに強烈な味。これが熟成の味なのか

今秋はカツオやマグロ、ヒラソウダなどを飽食している。釣り師の方の持ち込みもあるし、市場経由のものもあるが、秋が深まるに従って脂がのってきている。うま味も、脂も豊かなのに毎日食べても飽きない。
カツオやマグロ、ソウダガツオ類、スマなどを「マグロ族」という。英語の「ツナ」にあたる区分なのだが、この族の魚は総てがうますぎる。
まるで真夏のような朝、『市場寿司』ののれんをくぐると、店内にはご常連さんがぽつりと一人だけ。
「この前のヒラソウダよかったね」
「そうかな。あんなもの三本も四本ももらってもなー。使えるのは一日だけだし、マグロとかぶるしさ」
「いいじゃない。両方食べてもらえば、食べ比べ好きな人いるでしょ」
「そうじゃない。白身は三、四種類あってもいいけど赤身はダメなの」
「マグロだって、大トロ、中トロ。赤身で三種類あるでしょ」
「マグロはそれで一種類なんだよ」
確かにこれほど流通が発達しているのに、カツオをすしダネに使わないというすし屋さんは多い。これは鮮度落ちが早いのと、マグロと味がかぶるためらしい。
「そういえば、ネタケースの白身、今日は四品もあるね」
「右からタイだろ、ホウボウ、ヒラメ。さていちばん左はなーんだ?」
見た目からしてハタの仲間なのはわかるが、種類までは難しい。ただし片身でそれほど大きくはない。
「アオハタかキジハタかオオモンハタかアカハタじゃない」
この四種はすべて秋になって入荷の増えたハタ類である。
「四つも言うかい」
答えはアカハタだった。
ご常連の釣り師・ナギさんが伊豆半島、伊東沖で釣り上げたものだという。本当かどうかはわからないが、竿頭だったという。
「そういえばナギさん、伊豆が近くなったって喜んでたよね」
アカハタといえば小田原魚市場に行っている魚屋さんから、定置網でよく揚がっていると聞いた。
昔から相模湾に、こんなにアカハタがいただろうか? 最低限、小田原からの乗合で、ボクは一度もアカハタを見ていない。温暖化のせいかもしれないが、アカハタが釣れるというのはなんとも魅力的である。
「昨日来たヤツだからね」
つけてもらったら、透明感があり、見た目的にも美しい。ただしどこかしら味的にもの足りない。
「ほんのり甘味があって、シコっとした食感もいい。うまいとは思うけど、もうひと味足りない気がする」
「そりゃー、赤身の食べ過ぎだ」
確かにこの、そこはかとなく甘く、そこはかとなくうま味のある白身のよさがわからなくなってしまったようだ。お茶を飲み、気を取り直して、もう一かん口に放り込む。
「やっぱりあっさりしすぎ」
「まあ、うちに来たときの鮮度からすると来週の方がいいかもね」
週末を地方で過ごしての火曜日に『市場寿司』に顔を出した。黙って座ったらアカハタの握りが来た。明らかに透明感は失われているが、まだまだ見た目的にも美しい。
「氷の中に六日埋めてたヤツだよ」
「たかさん、ほっぺた落ちそう」
白身なのにインパクトの強い味だ。なによりもうま味が強いし、甘味が増したようでもある。不思議なことに、ほどよい食感もある。
隅っこにいたお客さんが、
「これが熟成ってヤツですか?」
「そうそう、その熟成させたヤツ。古いってのとは違うね」
「熟成させたんじゃなくて、たまたま熟成したんじゃないの」
「バカ言え。これがプロの技だよ」
最後にナギさんにも感謝! また大釣りしてくださいね。
以上の記事は「つり丸」2016年11月1日号の掲載情報です。
「アカハタ」の寿司➁… 味も見た目も満点だ!!

故郷、徳島から、走りのすだちがとどいた。
お礼のケータイを入れたら、早く旅に出たいと気がはやる。
まるで初夏を思わせる昼下がりの『市場寿司』に、故郷のお菓子とすだちを持参したら、たかさんがせっせと穴子を裂いていた。
「たかさん、どっか旅に出たいね」
「それどころじゃねーだろ。あれどうすんだよ。もう諦めなって」
「じゃあさ、筋肉(身)は捨てよう。皮だけってのはどうだろ?」
穴子裂きの手を止めて、たかさんが大きな片身から皮だけを剥ぎ取り、目の前で振る。
それは、ぶるんぶるんと震えて、ぎゅっと握ると中から水分が染み出してくる。
「あぶるか?」
軽くあぶると、ぐんにゃりと半分溶けた。
口に放り込むと意外においしいのだけど、触るとベトベトする。
たかさんが悪戦苦闘しているそれは、相模湾の水深千メートルから釣り上げられた、深海魚、ムネダラである。
全長九十センチ、重さは三キロ近くある。
古くはカラフトや北海道沖で揚がっていた魚で、深海での釣りができるようになってから、相模湾にも生息していることが確認された。
非常に珍しい魚だ。
釣り上げたのは、市場人で釣り具なども販売するエビスさん。
深海釣りの達人である。水深千メートルだと一日に四投しかできないらしい。
ムネダラやイバラヒゲなど、ソコダラの仲間は、ほとんど流通に乗らないので、実にありがたい。
エビスさんの暮らす町には当分、足を向けて眠れないくらいに感謝!
だた、普通のすし職人たかさんにとっては決してうれしい魚ではない。
「夕食作ったから早く帰って」
たかさんの顔に縦皺三本で、深海魚疲れがにじみ出ている。
仕方ないので、丼を受け取って帰ってきた。
我が家はコロナの影響もあって、自転車操業の毎日なのである。
この『市場寿司』特製のつまみ丼がうれしい。
つまみ丼とは、上に乗っかった刺身をつまみにして、しめにすし飯を食べるというもの。
刺身の他に煮た干瓢や奈良漬け、山牛蒡、だし巻き卵などが乗る。
この丼だけで十分、晩酌&夕ご飯となる。
前々回の丼ネタは市場の釣り名人、クマゴロウが銭州で釣り上げたウメイロだった。
本命のシマアジが釣れなくてウメイロばかりはイヤだと言うが、たかさんともども「ウメイロばんざい!」なのだ。
前回が近所の釣り名人、鮹さんにもらった相模湾の小アラだった。
タコが好きだから鮹さんなのだけど、魚を釣らせても名人級だ。
五月の小アラは実においしかったのだ。
そしてここ数日、これまたクマゴロウが銭州で釣ってきた、アカハタずくめとなっている。
銭州ではウメイロタイムがあり、水深四十メートル附近で、底から数メートル仕掛けを上げて狙うのだという。
そこでクマゴロウ、すかさず底狙いでアカハタを釣り上げてくるのだ。
この話を聞いた、たかさん曰く、「ルール無用の悪党っていいね」
船頭さんには申し訳ないが、この反則技で釣ったアカハタがやたらにうまい。
店のカウンターで握りを食べても、丼にして食べても、ほとんど毎日食べても飽きがこない。
前回のアカハタの脇役は奈良漬けだった。
そして今回は、久しぶりのだし巻き卵が我が故郷のすだちの横に可愛らしく乗っている。
今回は漬けと刺身が半々というのも憎い。
嫌みのない白身で、微かに甘く、後からじわりとうま味が追いかけてくる。
味も見た目も満点だ。
「たかさんアカハタのような彼女が欲しいな。きっと幸せになれる」
「きっと彼女も、アカハタのような彼が欲しいって思ってんじゃない」
「がんばってアカハタ男になる」
以上の記事は「つり丸」2021年7月1日号の掲載記事です。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
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