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釣る前に、食べる前に、カスミサクラダイという魚を知ろう!

釣る前に、食べる前に、カスミサクラダイという魚を知ろう!

カスミサクラダイは、スズキ目ハタ科イズハナダイ属の魚。体色は赤みを帯び、背鰭には深い欠刻がある。体側には赤色帯がない。主上顎骨に鱗がある、体側に赤色斑があり、背鰭軟条部や棘条部の縁辺、尾鰭などは黄色みを帯びるなども特徴である。体長20cmほどになる。

カスミサクラダイ(スズキ目ハタ科イズハナダイ属 )の生態

相模湾以南の太平洋沿岸、沖縄、台湾、そして南半球オーストラリアまでと広い生息域を持つ。水深100m~200mの荒い砂地にいる体長15㎝ほどの小形魚だ。
本種に関する書籍などの情報は極めて少ない。これは底曳き網や延縄などで揚がるものだが、ほとんど利用されなかったためらしい。成魚ではわかりにくいが、若い個体では、体側に桜の花びらを散らしたような濃い赤の斑紋があることと、大きくなるに従いこの斑紋が薄れて霞がかかったように見えにくくなるためにつけたものと思われる。今でも鹿児島ではれっきとした食用魚で、漁港では競りの対象になっている。

カスミサクラダイの値段は?

さて、値段の方だが、築地をはじめ関東の市場ではしばしば見かけている。が、なにかに混ざってきてしまった模様で、値段がついているのを見たことがない。実際、築地場内で本種をじっと見ていたら、「はいよ」とくれたことがある。要するに本種は関東では値段のつかない魚なのだ。

「カスミサクラダイ」の寿司…皮目をさっとあぶって握りに。実に美味

太陽がかっと照りつけての猛暑日が続いたりして、どことなく心も体も重い。そんな日が続いている。

「お客も来ないし夏枯れかねー」

たかさんがネタケースの整理を始めながら、ぼやく。ネタケースに残るすしダネは少ない。

「枯れてるのは商売じゃなくて、たかさん自身なんじゃないの」

たかさん、黙って全形の海苔を簾に置いて、残ったすし飯に残ったタネ全部を巻き込んで、ボクのお昼ご飯を作ってくれる。内房でナギさんが釣り上げたマゴチや、相模湾でご近所の釣り師が釣ったというマアジも入っていて、豪華絢爛である。

「安土桃山時代のようだね」

「なんだねその、アチチアチチってのは。どう、うまいだろ?」

「まばゆいばかりのうまさだよ」

さて、こんなのんびりムードの午後にケータイがなる。鹿児島県の水産会社の方からで、「底物が入ったんですけどいりますか?」。ということで、当然、お願いする。

「たかさん、最近、イサキ、マゴチなんて夏の魚ばかりだったよね。今度底物が来るから期待して」
実を言うと、昨日も釣ったばかりのイサキをいただいて、その恐るべきうまさに感動したばかり。ただし、そろそろ夏の魚にも飽きてきた。

鹿児島を午後に出た宅配便は中一日で我が家にきた。中には鹿児島で底物と呼ばれているヒメコダイとカスミサクラダイの“赤々二種”がたっぷり入っている。実はヒメコダイはともかく、カスミサクラダイは、釣りの世界でこそお馴染みの魚だが、流通の世界ではめったにお目にかかれない。このような人気のない、流通上も価値のない魚が私的にはもっともありがたい。

たっぷりあったので半分は開いて干ものに、半分は『市場寿司』に持ち込む。これを見たたかさん、

「これはときどき釣ってきてくれる“あかぼら”ってヤツだよね。この派手で不細工なヤツはなに?」

「カスミサクラダイだよ」

「春日子(タイの幼魚)のように酢で締める? その方が、このきれいな皮目が生きると思うけど」

「いいね。いろいろやってみてよ」

さて、届いた午後には皮目をさっとあぶって握りに。翌日は酢じめをつけてもらった。この両方ともが実に美味しいし、後味がいいので、ついつい手が伸びる。

「“あかぼら”がうまいのは当然だけど。初めてだけどこっちもうまい。魚は顔じゃないね」

「たかさん、これ初めてじゃないよ。ナギさんが伊東で釣ってきたのもこれだし、たしか浅やん(釣り名人)も持って来てくれた」

そのときにも、たかさんは高い評価をつけていたはず。最近急激に、たかさんの記憶力が低下してきている。孫の人数すらもよく把握していないらしい。大丈夫だろうか?

さて、中一日あけて、『市場寿司』に朝ご飯を食べに寄ったら、端っこの方にカスミサクラダイのあぶりが二枚だけ残っている。

「これどうしたの?」

「昨日捨てようかと思ったんだけど、食べたらうまくてさ。お客には出すつもりはないけど、捨てるに捨てられなくなっちまったんだ」

あっという間につけてもらって、口に放り込んだら、いきなり甘いのである。それに濃厚なうま味が感じられ、すし飯との馴染みもいい。たかさんも口に放り込んで、

「小魚だけど、寝かせた方がいいのかもね。また鹿児島に頼んでよ」

朝九時をまわったとき、近所の若くて華やかな一団がカウンターに並んだ。みんな可愛い!

「たかさん、一気に夏が来たね」

「オレには春が来たようだよ」

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2015年8月15日号の掲載情報です。

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