ブリ(スズキ目アジ科ブリ属)の生態

小笠原諸島や沖縄県には少ないが日本列島を囲むように生息している。昔はオホーツク海にはほとんどいなかったが、近年サケの定置網などにたくさん入って話題に。
出世魚としても有名。関東では「わかし」→「いなだ」→「さんぱく」→「わらさ」→「ぶり」。関西では「つばす」→「はまち」→「めじろ」→「ぶり」。ブリの一大産地富山県では「つばえそ」→「こずくら」→「ふくらぎ」→「はなじろ」→「がんど」→「ぶり」。出世の行き着くところはほとんどの地域が「ぶり」止まりだが九州北部では特別大きなのを「おおいお(大魚)」と呼ぶ。ちなみに日本全国で見ているが大きさによる呼び名は、ほぼ目分量のようだ。
ワラサの値段は?
ブリは大きいほど高い。また秋から冬が高く、例えば関東の「わかし」はあまり値がつかない。また「いなだ」サイズも全国的には安い。比較的高値となるのは「わらさ」以上。昨年は三浦半島毘沙門港から来た「いなだ」、「わらさ」が築地で大人気となり、驚くほどの高値をつけた。2㎏以上で卸値1㎏あたり2000円前後。今回の主役は同じく三浦半島産で5㎏なので卸値で1尾1万円もすることに。引きが強く取り込みの難しい魚だが慎重に釣り上げて欲しい。
ワラサの釣行レポート
「ここのところイナダがよくまじっていますね。またイナダが掛かったと思うと、今度はもっと引きが強くてワラサだったということもあります」と話すのは剣崎松輪「大松丸」の鈴木大揮・若船長
三浦半島剣崎沖には毎年毎年〝律儀〟にワラサの群れがやってくる。今シーズンは例年並みと言える8月上旬に食いだした。「今年は今のところ3㎏未満のサイズが多いですが、反応はまずまずですよ」と、剣崎松輪「一義丸」の北風謙一船長は言う。
東伊豆エリアのワラサは、9月中旬過ぎから初島沖で開幕。その数日後、川奈沖でも開幕した。10月前半の時点では初島沖でも川奈沖でも釣れている。まだ爆釣はしていないが、トップ2〜4本という日が目立つ。サイズは3㎏前後がアベレージで、イナワラサイズから4㎏オーバーの良型もまじっている。
「ワラサ」の寿司…脂がのっていて甘味が豊かでメチャクチャにうまい

週末は必ず船釣りという頃があった。ただし典型的なへぼ釣り師で、たいして大きな魚を釣った経験がない。一メートルを超えるサイズに育つブリの場合、「『わらさ』ぎりぎりかな」と乗合船の船長さんが言ってくれたのが最大である。今考えると二キロ弱くらいだから「さんぱく」と言った方が正しい気がする。
ということで「わらさ」はボクにとって憧れの魚だ。一度でいいから「わらさ」を釣ってみたいと思う。
十月末のこと。ご近所の釣り名人、鮹さんから「松輪で釣った『わらさ』いりませんか?」とメールが来た。「待っています」と返信すると一時間ほどでやってきた。
「今年は当たり年かも知れません」
ボクに、ほいと手渡してくれた「わらさ」が大きい。まごうことなく「ぶり」サイズに見える。
「こ、これはもう『ぶり』でしょ」
「いやいや今日釣った中では小さい方なんです。『わらさ』です」
「何本釣ったんですか」
「九本です。いちばん大きいのは六キロオーバーでした」
平均五キロとして、×九で四十五キロも釣ったことになる。
鮹さんの二の腕から肩にかけてをよく見ると、例えば巨大なレンコンのようにモリモリと筋肉が盛り上がっている。ひょっとしたら鮹さん、十キロくらいのダンベルを、一日に千回くらいクイクイ上げているのかも知れない。いや間違いない。釣りのためならこれくらいやりそうな気がする。耳の奥にいきなりロッキーのテーマが流れて来た。
これを大急ぎで『市場寿司』に持ち込んだ。たかさんに手渡すとき、「ぶりパンチ!」と言うと「ノックアウトだ」と言っていきなり倒れた。
「こりゃ、まいった。『わらさ』じゃなくて『ぶり』じゃねーか」
「そうだよね。築地でも『ぶり』だ」
狭い店内では下ろせないので店の前に台を置いて、片身に包丁を入れるとバリっと音がした。それほどに鮮度がいいのである。
店仕舞い後なので刺身にして食べてみたら、脂がのっていて甘味が豊かでメチャクチャにうまい。思わず冷蔵庫からノンアルコールビールを出してきてカンパーイ。
「こりゃーすごい! ぶりっ子じゃなく『ぶり』そのものだよ」
翌日は、朝から「わらさずくし」。
「たかさん、朝は丼にして」
腹身をあぶったのと、背の方はそのまま生での二色丼が来た。
これを見ていた常連さんが、
「わたしにもこれくださーい」
その隣も、その隣もと注文が続いて、どんどん鮹さんの「わらさ」が消えて行く。これを「うまい!」と言うと在り来たり過ぎるが、そうとしか言いようがない。あぶった腹の方はまだほんのり温かくて、口のなかでとろりととろけるようだし、背の方は適度な酸味とうま味があって、これはこれでやたらにうまい。
お隣さんが、「あっと言う間でした」と空の丼を見せてうっとりした顔をしている。その隣も同様である。
ボクもきっとこんな顔をしている気がする。「幸せだな!」。
店仕舞い後にのれんをくぐったら、たかさんが丼を食べていた。
「わらさ丼、食べてるんだ」
「あんましうまそうで、オレもね」
すし職人が惚れる味だという。
握りも、特に腹身が見た目にも美しくて官能的なうまさだった。
「やっぱり腹の方がうまいね」
「交互に食べるといいよ」
確かにその通りだった。
ネタケースの鮹さんの「わらさ」はもう四分の一も残っていない。
「今度持って来てくれるとしたら十キロオーバーだよね」
「鮹さん、待ってまーす、じゃなくてボクも『わらさ』釣りたーい」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2016年12月1日号の掲載情報です。
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