ヒラメ(カレイ目ヒラメ亜目ヒラメ科ヒラメ属)の生態

北海道から南シナ海までの砂地に生息している。ヒラメ科では最大級で小魚や甲殻類などを食べる典型的な肉食魚である。
さて、ここでは東西でのヒラメの評価の違いについて書いてみたい。国内の魚の評価は年々全国一律化が進んでいる。その地、その地での魚文化が消失しようとしているが、ヒラメはやや関東での人気が高い。
ヒラメを白身魚としてもっとも珍重するのは関東であった。これは東京湾でもとれた上に、一大産地の常磐地方、九十九里、外房に近いためだろう。これに対して瀬戸内海に面した大阪、兵庫などでは、マコガレイやメイタガレイ、キジハタなどと一緒くたになり、関東ほど珍重されない。これは瀬戸内海が白身の宝庫だからだろう。ちなみに今でも山陰などでとれたものは関西を素通りして、関東に送られることが多い。
北海道全沿岸から九州までの比較的浅い砂地に棲息している。
九州南部には少ない。海外では朝鮮半島、中国沿岸にもいる。
魚の名前には世界中に通用する学名と国内だけで使われる標準和名がある。
ヒラメは国内海域の魚の中でもっとも早く学名と標準和名がついた。
学名は長崎に来ていた彼のシーボルトが持ち帰った個体でつけたので、日本はまだ江戸時代弘化年間だった。
標準和名は明治時代初めのもの。ただ本種をヒラメと呼ぶ地域よりも「かれい」という地域の方が多い。
新潟などでは「かれい」、富山では「大がれい」。
口が大きいので「大口がれい」などだ。意味不明ながら北海道の「てっくい」、青森の「かるわ」などもある。
本種は目が体の左側にあるが、山口では口が左側にあるとして「左口」という。
ヒラメの値段は?
日本一ヒラメの高い関東では3〜4キロサイズくらいがいちばん高価、超高級魚である。1キロあたり5000円以上は当たり前なので3キロくらいで1尾15000円はざら。それではそれ以上10キロ前後になるとどうか、というと高級ではあるが「超」が取れる。1キロあたり2千円前後。10キロサイズで1尾2万円くらいだ。

大ビラメは3月以降激安に
産卵する大型は3月になると急激に値下がりする。
旬の秋から冬にかけては1㎏あたり卸値で3000円~5000円するが、これが10分の1まで安くなることもある。
逆に同じヒラメでも1㎏前後以下はやや値を上げる。
活け締めしたものは平均して1㎏あたり卸値2000円前後だ。
特に関東の近海ものなら、1㎏あたり卸値で3000円前後はする。
今回の福岡県産は重さ1.2㎏なので1尾卸値3600円だ。
3月になると、このサイズの方が大物より味も値段もいい。
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「ヒラメ」の寿司①…ほっぺの握り炙って食す。初めての味だ。うまい

正月が近づくとマダイ釣りを始めるのが、ご近所の釣り師たちの恒例となっている。それが今年は、いまだに「そげ」ばかりをいただいている。釣り名人そば屋の浅やんに「そろそろマダイ?」と聞くと、「今週もヒラメ」と言って去って行く。
年末になり、てんやわんやの慌ただしさだ。ボクは、この時期がどうにも好きになれない。そして還暦過ぎのすし職人、たかさんの場合、この初冬、決まってウツになる。
大丈夫かな? とのぞいた昼下がりの『市場寿司』。店内に入ると、そこはもうクリスマス当日のようであった。ネットで探して来たという、キャピキャピの(表現古いな)の若い娘が四人、五人、じっくり数えたら六人もいたのだ。その騒がしいのを前に、にやけ顔の男が一人、せっせとすしを握っている。大皿に白身を並べて「これサービス」。
「ありがとう、これなんですか?」
「そげだよ〜ん」
なにが「だよ〜ん」だ、みっともない。ちょっとは顔のゆるみを抑えろ、と言いたいところだが、「オジサンだれですか?」に「ぼうずコンニャクだよ〜ん」はなかったかも。
おいしそうに食べていた女子大生だというAが、「そげってなあに?」に「ヒラメの小さいのでーす」。
「どこでとれたもの?」
「これはね、大原」
「京都でとれたんだ、すごーい?」
そんなわけはない、「ほんまに大学に行っとるんかい」とは言わず。
「千葉県の太平洋側の大原だよ」
と応えている自分が情けない。
そこに突然、たかさんのケータイがディズニーの着信音を奏でる。
「知り合いが大きなヒラメ釣ったから、おろしてくれってさ」
翌日、『市場寿司』に置かれていたヒラメの頭を見てびっくり仰天。
「昨日のヒラメすごかったぞー。十キロ以上は初めて見たよ」
ひょっとして体長一メートル超えかもしれない。きっと魚拓取ったのだろうな、なんて釣ったヒラメの最大記録六十センチのボクは、想像するだにうらやましい。
カウンターに座るなり出てきた縁側が大きい、そしておいしい、そして「もっと食べたい!」。
「四分の一もらったんだけど、縁側だけで十かんとれそうだよ」
縁側二かん、身を二かん食べて、
「ヒラメは大きくても大味じゃないね。当然、当たり外れはあるだろうけど。しこっとして、味にも深みというか、ボリュームを感じるね」
おいしいとは思うものの、大ビラメの味のよさは当たり前。何かおもしろい握りはできないだろうか。ネタケースにヒラメの頭、その目がこちらをにらんでいる。
「そうだ、ほっぺ握ってよ」
「ヒラメにほっぺある?」。素直に、ほっぺを掘り出しながら、
「あら煮には使ってたけど、頭には身はない、と思ってたよ」
たかさんが見せてくれたほっぺがデカイ。ただ、一切れ切りつけて首をひねっている。
「どっちから切ればいいんだ?」
さっそく一かん目を口に放り込む。むむむ……。不思議なことに本体の方とは、味も食感もまったく違っている。まったりと優しい味だけどポイントがつかめない。でも甘みが強いのだけは明らかだ。
目の前でたかさんも首をひねり、やおらバーナーを取り出した。必殺のあぶりである。
「たかさん、味が激変した。微かにエビのような風味がして、非常に甘みが強くなったし、食感もいいよ」
「初めての味だよ。うまいよ」
さて、師走になっても、たかさんにウツの症状が現れない。その理由は、考えるまでもない。お客の平均年齢が、ぐぐっと下がったせいだ。
「ヒラメ」の寿司➁…ヒラメは細巻きにしてもうまいなー!

去年の秋、福岡県の漁師さんに欲しい魚を問い合わせたら、「いっぱいとれます。今度とれたら送ります」、と請け合ってくれた。半年が経っても一向に連絡が来ない。催促するわけにもいかない。困っていたらいきなりでっかい荷物が来た。
中には干ものや蒲鉾などがいっぱい詰まっていた。お願いしていたものは魚なのに、なぜ? と思っていたら箱は二段重ねで下に高級魚がたっぷり入っていたのだ。
「いろいろありがとうございました。あのー、あれは?」
「すまんです。『まつこちゃん』一向にとれんのですよ。ほるくらいにとれとったのにぱったりですわ」
探しているのは、サツオミシマという超おデブな肉食魚だ。
とてもまずい魚なので、とれると逃がすらしい。
ちなみに「まつこ」と呼び始めたのは、その親切な漁師さん自身で、じょじょに周りでもそう呼び始めているらしい。
九州での呼び名は「おぼこ」。なぜ「まつこ」と呼ぶのかは、失礼な話なので述べない。
刺網漁で揚がる売れない魚だけど、ぱたりととれなくなった。
それではと、生きエサをつけて釣りをしたら、今度は売れる魚がいっぱい釣れたという。
今回、福岡の物産の下にあったのは、その売れる魚である。
たかさんに丸投げする。
昼下がり、一瞬嫌な顔をしたが中のヒラメを見てニコリ、最近やたらに歌っている変な歌をまた歌い出した。
「それやめた方がいいと思うよ」
「どうして?昔はやったでしょ」
「昔すぎるって」
昔「三人娘」というのがいた。
山口百恵、森昌子、桜田淳子までは知っている人も多少はいると思うけど、その前にもいたのだ。
中尾ミエ、園まり、そして問題の伊東ゆかりだ。
「ヒラメがかんだ小指が痛い♪」
今では年寄りしか知らない、半世紀以上前に流行った曲の替え歌だ。最初に気持ち悪いと言い始めたのは、市場の釣り名人、クマゴロウだ。
「確かに水槽のヒラメに噛まれたの見たよ。でも人差し指だからね」
毎年、ご近所の釣り師達は二月に大挙して飯岡や銚子にヒラメ釣りに行く。
ところが今年は誰も行かなかった。
クマゴロウは、ヒラメを提供しなかったので、嫌みで歌っている、と勘ぐっているらしい。
「この辺だとイワシで釣るよね。玄海灘ではミミイカで釣るんだって」
「へー、イカをエサにするんだ」
今季、ヒラメ乗り合いに出掛けなかったのは、天候のせいらしい。小型のバスで行く、ヒラメ釣り一泊旅行は実に楽しいという。
こんな話をしていると、たかさんがまた「小指が痛い♪」と歌って通り過ぎた。
「今日も昼飯食いに行くからね」
玄海灘のヒラメは総て一キロ前後の大きさだった。
たぶん福岡の漁師さんは、同い年の群れのいる場所に仕掛けを落とし、根こそぎ釣ってしまったのだろう。
昼下がりになると、ヒラメのすしをつまみ、歩きの時は軽くいっぱいという日々となる。
握りがうまいのは当たり前だけど、いくら食べても食べ飽きないことに驚く。
思った以上に脂が感じられて、舌に甘く、魚らしい旨味がとても豊かなのだ。
「シコシコ感が心地いいね」
「使いやすいんだよね。嫌いな人がいないからさ。儲かるしね」
休みを挟んで五日間で、合計六キロをお客さんとボクとでほぼ食べ尽くした。
その味の余韻が舌に残る。
「クマさんこれを見て、ヒラメ釣りに行くってさ。今度は千葉産だね」
また変な歌をうなり始めたので、悪霊退散と言いながら去ろうと思ったらお土産をくれた。
帰って包みを開けたら、細巻きだった。
ヒラメの細巻きってうまいなーと思いながら、まさか小指で細巻き?
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2014年1月1日号・2022年4月1日号の掲載情報です。
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