カワハギ(フグ目カワハギ科カワハギ属)の生態

青森県から九州南岸までの浅い岩礁域に生息している。国外では朝鮮半島から中国香港までと台湾に広く生息しているのに、なぜか琉球列島にはいない。
標準和名は東京都での呼び名から。日本海山形県ではウマヅラハギを「馬面」というのに対して「牛面」、鳥取県などではウマヅラハギを「ちゅーかー」と呼び本種を「丸ちゅーかー」と言う。またウマヅラハギを単に「はげ」というのに対して「餅はげ」という地域があるのは、値がいい魚なので正月の餅代になるという意味だ。
古くは煮つけや鍋などに使われる魚だったが、最近では肝をつけて刺身にすることが多くなっている。そのせいもあり、肝がふくらむ秋から冬にかけて市場では常に品薄感がある。養殖ものと天然ものがあるが圧倒的に後者の方が高い。
カワハギの値段は?
平均サイズの200g前後が養殖ものでキロあたり3000円(以下すべて卸値)、天然ものでキロあたり5000円もする。200g前後で1尾1000円くらいになる。大型400g前後だと養殖ものでキロあたり6000円、天然ものではキロあたり1万円を超えるなどざらである。特大サイズだとなんと1尾4000円もする。カワハギは買うよりも断然釣った方がいい。
カワハギの釣行レポート
「すごい多いという年ではないけど、毎日まずまず安定して食っていますよ。ワッペンも出てきたので、スピーディーな展開になっています」と、腰越港「多希志丸」の鈴木雅則船長は言う。
鴨居大室港「五郎丸」は10月3日からカワハギ乗合を開始し、開幕から竹岡沖を狙っている。カワハギ船を担当する山口隆幸船長は「今年の竹岡沖は、昨年より断然いいですよ!! 数もそれなりに出ていますし、サイズもいいのが上がっています。この前は34㎝なんていう大型が釣れましたからね」と話す。
本格シーズンを迎えたカワハギ。ポイントが点在する東京湾では、これから多くの船がカワハギ狙いで出船する。なかでもカワハギ釣りが盛んな港、久比里には多くのカワハギファンが集まり、連日好釣果をたたき出している。久比里「山天丸」は、このところ剣崎沖に出船しており、トップ25~35枚前後と安定して釣れている。
「カワハギ」の寿司…舌に気持ちを集中させると、甘みと微かなうま味

圏央道ができてから多摩地区から相模湾までが、ぐんと近くなった。近所の釣り師の釣行回数も多くなった気がする。なかでもずば抜けて釣行が多いのが、市場で干ものや練り製品を扱う仲卸を営む福さんだ。
九月以来毎週のようにカワハギを分けてくれる。十月、十一月と肝がふくらんでくるのがわかる。「ワッペンは小さいけれど味がいいんだな」というのも、毎年思うことだ。
さて、十一月になったばかりのある日『市場寿司』に行くとシャッターが閉まっていた。電話すると、お身内にご不幸があったのだという。
残念だけど仕方がない。ボクはそのまま紀伊半島へと旅に出た。
三重県の紀伊長島から奈良県へとサバが運ばれた道をたどる。日本海から京都への『鯖街道』は有名であるが、実は熊野から吉野・大宇陀・明日香周辺への『鯖街道(熊野街道)』の方が歴史は古いのである。そのまま和歌山の海岸線に抜ける。紀伊半島最南端串本町を通り、新宮市から三重県に入り、熊野市を経て、たどり着いたのが尾鷲市である。
必ず立ち寄る美しいママのいる喫茶店で一休み。魚屋さんを二、三軒見て回り、最後の『岩崎魚店』に寄ると、ちょうど見事なカワハギを締めているところだった。
「アニキ、これどこの?」
この店の店主は若くて、見るからに威勢がいいので人は彼をアニキと呼ぶ。カワハギの頭部にナイフを刺し、眼の横から細い串を刺すと、カワハギの動きがぴたりと止まる。
「一重さんや」
そのままカワハギの後をつけて『すし処一重』の引き戸を開ける。
「カワハギは貝で釣りますね。ぼうずさんはカワハギで釣るんかな」
濃いお茶が出て、「ちょっと待ってもらわな、いけません」。開店の三十分も前だ、当たり前である。
「今日は何があります」
「そうですね『おにえび(ミノエビ)』、『がすえび(ヒゲナガエビ)』の深海エビ二品とウチワエビ。最初はえび尽くしといきましょうか」
深海エビは尾鷲名物ともいえそうなネタで、願ってもない。ウチワエビは生け簀で生きている。この三かんをつまんで、エビのすり身の入った卵焼きで濃いお茶をすすっていると。どこからボクのことを聞きつけたのか、しーさんが登場した。
「なんで来とることを言わんの」
しーさんは三百六十度どこから見ても風采の上がらないオヤジだが、実はこの町の市長さんなのだ。毎日尾鷲港に魚の水揚げを見に行くので、人呼んで「お魚市長」だ。
「何食うた?」、「エビ3品です」、「そーりゃいかん、おいカワハギ出して」に、奥から「もうやってます」。
出てきた握りに、
「肝は生や、わかるか、肝を生で食えるんは尾鷲だけや。これ食うたらもう、お江戸のんは食えんはずや」
この締めたばかりのカワハギの、身の食感がいいのは当たり前だが、不思議なことにじんわりとうま味が染み出してくる。そして肝の味がほとんどしない。舌に当たった途端肝が溶けて、上質のクリームのようではかない。二かん目、肝の味を確かめるべく目をつぶり、舌に気持ちを集中させると、甘みと微かなうま味がある。三かんめも四かんめも同じ。それでいて、いつの間にカワハギの虜になっている自分がいる。
東京に帰り着いても、尾鷲のカワハギがしきりに思い出される。
十一月なかば、やっと『市場寿司』が再開。なんとネタケースには福さんが釣ったカワハギがある。これを一、二かんつまむと、決して相模湾のカワハギの味が、尾鷲に引けを取らないのがわかる。実にうまい!
「そうだ、忘れてた。たかさんお帰り。それとカワハギもう一かん」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2015年12月15日号の掲載情報です。
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