アブラボウズ(スズキ目ギンダラ科アブラボウズ属)の生態

紀伊半島以北。
オホーツク海、アリューシャン列島、アラスカ湾、カリフォルニアの太平洋の寒冷な海域に生息している。
日本海にはあまりいない。
標準和名は神奈川県三崎での呼び名だが、北海道から相模湾まで、漁を盛んに行っている漁港では、必ず「油」をつける。
「油魚(あぶらこ)」、「油坊(あぶらぼう)」。
伊豆諸島などでは色合いから「黒」だ。
ただ小田原の「おしつけ」だけはわからない。
小田原の釣り船は、お客のいないとき「おしつけ漁」に出ることがあるようだ。
なぜ「おしつけ」なのか聞いてみると「食べ過ぎると腹を下して、押しつけられるような痛さがあるからだ」とのこと。
でも腹が痛くなるほど食べるのはたいへん。
本種の脂はバラハタなど、人体に影響のあるものではなく、上質のおいしい脂だからだ。
肝を食べないで筋肉だけを適量食べるべし。
アブラボウズの値段は?
近縁種のギンダラは年間を通して値が高く、アブラボウズは安いというのが市場の常識だった。
それが崩れつつある。
今やあまり高くはならないが、安くもならず。
やや高値で安定している。
1㎏あたり卸値で2000円前後。
千葉県や茨城県で10kg級を釣り上げたら、1尾で卸値2万円なり。
アブラボウズの釣行レポート
アブラボウズ。めったにお目にかかれない巨大魚だ。大きいと優に重量は100㎏を超える。この時期は、石廊崎周辺水深600mの根周りに産卵のためにアブラボウズが集結。深海モンスターゲットのチャンスだ!
深海の巨大魚、アブラボウズは100㎏も現実的なモンスター。近年のスロー系ジギングの盛り上がりとともに、ルアーマンの攻略法も進化。一般アングラーでも十分に挑戦できるターゲットになった。
アブラボウズの寿司…食感はマグロの大トロ。そのままより漬けがいい!

読書と原稿書きと撮影と市場通いの日々を送っている。
そんなある日、市場の釣り名人、クマゴロウから電話がかかってきた。
「面白いのが来たよ」
面白くなかった。
クマゴロウのまな板にはデカイ魚の半身が置かれていた。
種は聞かなくてもわかる。
「どこが面白いの」
長い引きこもり生活でグレハマ気味、なので我ながら機嫌が悪い。
「川崎の人(住まいは茨城県)が釣ったヤツだよ」
クマゴロウの「川崎」とは川崎市にある川崎北部市場のことだ。
「うう〜ん、かなり大きいよね」
「茨城じゃ普通サイズみたい」
「こんなの何本も釣ったらたいへんじゃない。どうするの?」
「だからここにあるわけよ」
保鮮紙に包まれた塊が重い。
本体は十五キロもあったらしい。
茨城なら平潟か。荒海である。
釣り場も遠そうだ。
巣穴の中から出られないでいるアナグマのようなボクには、遠い、遙かに遠い世界のように思える。
その日の午後、『市場寿司』に持ち込み、全量丸投げした。
そのときたかさん少しも慌てず。
三キロ以上はありそうな塊をていねいに冊取りしはじめた。
冊取りして、どこかに持っていく。
残ったのはたったの二冊でしかない。
「まるでマグロみたいに冊にするんだね。残りはどこに?」
「マイナス五十度の部屋だよ」
「なんだ、マグロ屋に預けたのか」
「なんだっけ、これ?」
「アブラボウズだよ」
「脂の多いヤツは冷凍できるのさ」
ほんの数年前までは、すし屋で使うことはなかった魚だ。
それが近年、徐々に人気がアップしている。
当然、たかさんの顔はニコニコなのだ。
「とするとだ、十五キロ一本あると、何週間か使えるね」
「もっとだね。これを釣った人と親戚になりたいくらいだね」
「コロナが終わったら、クマゴロウ達も茨城に行くかもってよ」
「まずはこれね」
「妖怪のっぺらぼうだね」
見た目は最低の握りだった。
ただし食べたら食感はマグロの大トロ、口溶け感がして甘い。
味は明らかにヘビー級である。
ただし後味は重い。
「うまいね。やられたって感じ」
「次はこれね」
煮きりみりんとしょうゆを合わせたものにくぐらせて、つけたもの。
「こっちの方が絶対にうまい」
そのままでは味が重すぎるのだ。
一かん食べる分にはいいが、後を引かない。
次ぎに手が伸びない。
マグロの大トロは比較的後味がいいので、続けて二、三はいける。
どこが違うのか?酸味だろう。
マグロには微かだが酸味があるのだ。
「しょうゆにも酸味があるのかな」
「あるね。ほんの十秒足らずだけど、しょうゆの酸味やみりんの甘味がネタの表面で変化するんだね」
「最近人気なのは漬けだから?」
「違う。若い人はそのままつけても平気みたい。この前、全部これって人もいたけど、平気みたい」
さて、数日後の昼下がり、市場に寄ったら、クマゴロウが高そうな電動リールを動かしていた。
「遠征に行くんだ?」
「もう大丈夫だろ」
その日は『市場寿司』で、晩酌セットを受け取って帰ってきた。
アブラボウズの漬け丼、玉子焼きに、穴きゅう(煮穴子ときゅうりもみ)、マグロの佃煮のセットだった。
最近、漬け丼で冷や酒二合がいいのだ。
作って数時間経つと『市場寿司』特製の漬けしょうゆが馴染む。
この頃合いがウルトラCって感じ。
しかも漬け丼はすしではない。酒のアテである。
酒のアテなら太りはしない、……気がする。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。
店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。
ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。
本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。
どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。
目標は1000種類の寿司を食べること。
HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2020年7月1日号の掲載記事です。
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市場では安い魚ではない