ヒラソウダ(スズキ目サバ科ソウダガツオ属)の生態

北海道以南。世界中の熱帯・亜熱帯・温帯域のやや岸よりも表層域に群れを作る。
群れは作るがマルソウダの群れと比べると個体数が少ない。
これは熱帯域でも同じ。
マルソウダが熱帯全域で盛んに漁が行われ、重要な食料となっているのに対して、ややマイナーな存在となっている。
また2000年前後までは比較的暖かい海域。
例えば太平洋沿岸なら外房以南に多かったが、最近では三陸や北海道でも普通に見られる。
また日本海には少なかったが、こちらも増えているようだ。
今、北国からもっとも問い合わせが多いのも本種。
「ヒラソウダ=刺身で食べられる」、「マルソウダ=刺身では食べない方がいい」の見分け方を聞いてくるのだ。
胸甲部(鱗のある部分)が第2背鰭よりもかなり手前で終わっているのがヒラ、第2背鰭のところまで細長く伸びているのがマルだ。
ヒラソウダの値段は?
昔は流通しなかった。
知名度がなかったせいである。
ところが最近、流通量が増えている。
特に1kgを超えると高級魚で1㎏あたり2000円はする。
今回の主役、全長38㎝、重さ0.8㎏は、そこまではしないが1㎏あたり卸値1500円。
1尾卸値1200円はする。
釣り上げたらお持ち帰りを。
ヒラソウダの寿司…ヒラヒラヒラ!ヒラづくしでもうまいから嫌じゃない

秋が深まり、市場や近所の釣り人たちの行く港が固定化してきた。
親分格クマゴロウ曰く、三つのグループに分かれているという。
一つは、相模湾イナダ・ワラサばっかり狙う人々で、素直な人が多い。
二つ目は、相模湾、駿河湾でアマダイ釣りをする人々。
老若男女混ざりで、家庭円満で幸せな人が多い。
三つ目は、マニアックにカワハギのみ狙い、ベラを釣ると罰ゲームを科す。
ちょっと不幸で不思議な人々。
獲物は、みな非常にうまいが、変化に乏しい。
だんだん飽きてきて、釣果を聞いてあげよう、という気すら起こらなくなってくる。
さて、ある昼下がり。故郷から大量のスダチが送られて来たので、『市場寿司』に行った。
店に、珍しい人がいた。
たかさんファンの一人で、昔、ミス八王子だったという噂のオバチャンだ。
「たかさん、ちょっと飲んでいきたいんですけど、よろしいですか?」
「よろしいわよ♡」
真横の元ミス八から許可が下りて、恐れ多くもコップになみなみと冷やを注いでいただいた。
「かたじけない」
たかさんが、「はいよ!」とボクの前に皿をいっぱい並べた。
「これがヒラソウダの煮つけね。これがI君特製スモークヒラ、ヒラのなめろうに、ヒラのハラモの干もの。どうだ!すごいだろう」
素晴らしい。ひとつも仕入れたものがない。
しかも、全部釣り人が持って来たもので、しかも、しかも、ボクがもらったものなのであって、たかさんがもらったものではない。
「今、釣れてるんだね。それとさ、なんでもスモークするヤツ。魚食えないのに釣り好きなヤツ。それを全部ウチに渡すヤツ。姉ちゃん、こいつに丸投げやめろって言って」
ふたりは姉弟だったのか?
とどめの一発、その日の刺身はヒラソウダだった。
釣り上げたばかりの血合いをみそとたたいた「なめろう」がうまい。
ハラモの干ものには脂がある。スモークなんて売れそうだ。
「ヒラソウダって偉いとは思うけど、ほかにもなにかないの?」
「すし屋には迷惑な魚なの、責任取って全部食え。こんなにうまい魚、なんで誰も知らねーんだろ」
確かにヒラを知っているのは、市場のプロと釣り人だけかも知れない。
当然、すし屋じゃ売れない。
「たかさん、小腹がすいた」
「じゃあねー。これでどうだ」
なんと握りもヒラだった。
ここまでヒラソウダづくしでも嫌じゃないのは、うまいからだ。
明らかにカツオとは違う味だ。
脂が豊かなのに後味が軽い。
それほど酸味が感じられず甘味があり、口の中で、すし飯の酸味が生きる。
問題はダイエット中なのに、いくつでも腹に納まることだ。
「たかさん、ヒラ何本あったの」
「十本あった」
釣り名人、クマゴロウの仲間が茅ヶ崎などの相模湾で釣り上げたもので、発泡でくれたのでそのままをたかさんに渡したのだ。
「クーラーは大型にしないとだめだね」、とみんなが話していたわけがこれだ。
帰ろうとしたら、たかさんがオードブル容器を渡してくれた。
「卵焼きとかも入れといた」
「ありがとう(涙)」
元ミス八に見送られて、バスで帰ってきた。
深夜におミヤを見て腰が抜けた。
ヒラソウダのづけ中巻きがなんと十本分、切って計三十個も。
翌日、たかさんに歌ってあげた。
「土産にもらったづけ巻き十本、こんなにヒラばかりは~、やりすぎだ♪それでも全部、食ってしまった。それでも全部、食ってしまった♪」
「今日も十本おミヤだね」
「うん」
以上の記事は「つり丸」2020年12月01日号の掲載記事です。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
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昔は流通しなかったが今は高級魚扱いだ