テンヤに命を吹き込む ロッドの選択とは

ご存じの方も多いだろうが、昨年と今年では東京湾のタチウオテンヤの釣りは、全く別物といえるほど様相が変わっている。
「完全に即掛けの釣りが主流化したことにくわえて、とくに夏が終わってからの模様はシビアになりました。アタリを引き出す誘いを見つけられないと、タチウオがテンヤに触ってもくれません」とは、がまかつフィールドテスターの田中義博さん。
「バイブレーション釣法」や「Dトゥイッチ」といった新しい誘いが広まっているが、単にそれを真似るだけではなく、その中でも誘いのパターンを細かく使い分け、目感度が高く、即掛けにいける専用竿が必須の状況となっているのだ。
これに加えて田中さんは、ロッドマネージメントも戦略に取り入れている。
「8対2のタチウオテンヤMSと9対1で超硬調のタチウオテンヤSR-Tiでは、同じように誘ってもテンヤの動きが全く違ってきます。ロッドの調子を変えることでも、テンヤの見せ方を変えられるのは、気難しい状況のタチウオからアタリを引き出す強力な武器になりますよ」という。
「テンタチ」にハマって、いま一つ釣果に伸び悩んでいる人は、ぜひ、ロッドの調子を使い分ける戦略を取り入れることをお勧めしたい。

激戦区で勝ち抜くための テンヤとエサの準備

テンヤのカラーも誘いと並ぶ重要な要素。赤金とイワシ系のナチュラル、パープルゼブラの3色は絶対に外せないカラーだ
「この釣りは、テンヤの色で、明らかにアタリ方が変わることがあるので、最低でも、イワシカラーのシルバー(ナチュラル系)、赤金、ゼブラグローの3色ぐらいは用意しておきたいですね。ヘッドの形状によっても、誘いに対するテンヤの挙動は変化するので、同じ色でもタイプの違うものを揃えておけば、それだけ引き出しが増えることになります」と田中さん。
なお、カラーと水色の相関は、一概には言えないが、田中さんは赤金をベースにカラーをローテすることが多い。
関西で主流のオールグローのヘッドは、東京湾ではあまり効かないとされているが、ごくまれにハマることもあるそうだ。蛍光赤や紫の単色などが効くことも少なくないので余裕があればこうした色も試してみよう。
なお、これに加えて、この釣りはエサの準備も手を抜けないテーマだ。
「アタリの数が減ったとはいっても、朝から昼過ぎまでやる船なら40匹は用意したいですね。イワシは、そのままではエサ持ちが悪いので、私はアミノリキッドに付け込んでから、旨〆ソルトで締め具合を調整します。生食用の鮮度のいいものが手に入ればベストです。自分で釣った小サバやアジ、カマスを使って釣果を上げている人もいるので、可能なら試してみるといいでしょう」という。
ともかく、「テンタチ」の鉄火場である走水沖は、平日でも大船団がひしめく激戦地である。
“人と違う何か”をできることが、局面打開の切り札になることもある。
テンヤ、エサとも可能な限り”攻める手数”を増やして、日本一の激戦地で釣り勝ちたい。

マルキユーの「アミノリキッド」と「旨〆ソルト」は、必携のアイテム。

冷凍イワシを支給されたら、解凍時にジップロックのなかでこれを添加してエサをチューニングしたい。
アタリの数に直結する事前の準備

曲がらず崩さず確実にイワシとテンヤは一体化。
イワシの正中線を崩さず真っすぐ刺し、ワイヤーで巻くとき姿勢を崩さずヘッドから身がはみ出ないように付けよう。
なお、テンヤの付属ワイヤーは短いことも多い。
0.2㎜のステン線を1mにカットして使用すると、こんな太いイワシでも綺麗に巻き上げることが出来る
エサの鮮度をキープする専用のクーラーは必須だ。
予備のエサ&テンヤに巻いたイワシは、必ずクーラーで保存したい。
エサの鮮度はアタリの数に直結するから、エサ専用のクーラーが欲しい。
なお、田中さんは出船前に、必ず色&タイプの違う5~10個のテンヤにイワシを装着しておく
テンヤを仮置きするトレーよく切れる大きなハサミ、仮置き用トレーは、イワシの脂で船を汚さないためのグッズ。
イワシをトリミングするためのキッチンバサミは、切れ味のいいものを使うと装餌が綺麗に仕上がる。
なお、エサの血や脂は、凄く滑るので、すぐに海水とブラシで掃除しておくのがこの釣りのマナーだ。
いま釣れる4つの誘い そのアレンジの方向性

今シーズンの「テンタチ」で誘いの主軸となった「バイブレーション釣法」と「Dトゥイッチ」。
この両方に共通するのは、同じ距離を誘い上げる中でテンヤをより細かく動かすことにある。
田中さんのロッドも、これに合わせて、硬めのモデルを使用するようになってきた。
「夏場よりは、タチウオがスレてきたのか?動きのメリハリはもちろん、ステイの長さやアタリの出るタナの探り方がよりシビアになっている気がします」。
取材日の前半の田中さんは、様々な誘いを試す中で、「Dトゥイッチ」に8~10秒(通常は1~2秒)のロングステイを組み合せるパターンで数を重ねていった。
非常に興味深かったのは、“今年は全然ダメだ”といわれてきたデッドスローが、取材日の後半にはストロングパターンになったことだ。
釣った人も、“これで釣れたのは昨年以来”というぐらいだから久々のことだ。
「流行の誘いを見切る魚が反応したのかな?この釣りは2年でこれだけ誘いが変わってきたぐらいです。まだまだ新しい攻め方がありそうですね」と田中さん。
上の図はあくまで基本だ。ロッドの硬軟による動きの質や誘い上げる距離、ステイの長さなど、テンヤとロッドでやれることは全部試すのがいまの東京湾の釣りなのだ。

電動の微速巻きを掛けつつ細かく竿をシェイクする「フルタイムバイブレーション」。これも含めた専用竿ならではのメソッドで「掛けに行く釣り」が現在の主流だ
「テンタチ」のアタリとランディングのコツ

今年の「テンタチ」で即掛けの釣りが主流になったのは、今シーズンのタチウオが、テンヤを食い込む大きなアタリを見せることが非常に少なくなったからだ。
「ともかく、疑わしきはアワせるのが今の流儀です。微妙にティップを持ち込むアタリでも、イワシの腹部をタチウオが咥えていれば、十分に掛けることができるのがわかってきました」。
ただし、イワシの尾部がテンヤから長く出ていると、その部分が良く動くためか?後方からのバイトが出てしまい、掛からないアタリが頻発するので注意。
たびたび歯形が尾部に集中していたら、小型のタチウオがちょっかいを出している可能性もあるが(これは歯型の大きさであるていど推察できる)。
イワシのセッティングを微調整したい。それに、大型を後ろから追わせてしまうと、運よく掛かっても下顎にフックが刺さるので、口切れの確率が高くなる。
「一番理想的なのは、誘いの動きでタチウオにスイッチを入れて、下からイワシの腹部を突き上げテンヤの荷重が抜ける“跳ね上げアタリ”を引き出すことです。これで食わせたタチウオは、硬い頬の部分に掛かるので、バレを減らすことにも繋がります」。
なお、ドラグはドラゴン級に備えて、MAXの80%程度に設定しておこう。
「この設定で、大型が掛かるとジリジリとドラグが滑ります。あとはロッドが硬ければ体も使って引きをいなしてやることでテンションをキープして浮かせます」。
首尾よくドラゴンを浮かせても抜き上げ時にバラす人が案外多い。
右のような手順で先糸を取ったら、くれぐれも水面での“綱引き”は厳禁だと覚えておきたい。
【東京湾・走水~猿島沖】テンヤタチウオ 釣行レポート
繊細にして豪快なテクニカルゲーム 猫の目のようにパターンが変わる
まだまだ熱い! 「テンタチ」戦線

船中第一号を仕留めた高山さん。

テンヤは同僚の女性がドレスアップしてくれたオリジナル。「これ、ちゃんと目玉が動くんだよ(笑)」

テンヤの重さが消える「抜け」、微妙に穂先に出る「押さえ込み」を果敢に掛けに行くと「ドスン!」とロッドが止められる。これが「テンタチ」の醍醐味だ

先糸を取ったらタチウオの頭がこっちを向いたタイミングで一気に抜け上げる。水面で「綱引き」をするのがバラしの原因になるのだ

難しいからこそ、またやりたくなってしまう釣りです」とは、がまかつフィールドテスター・田中義博さん。当日は、愛用のタチウオテンヤMSシリーズにタチウオテンヤSR-Tiも加えたロッドマネージメントで、120cmを頭に8本。1本、1本が誘って食わせて掛けにいった試行錯誤の結果だから「釣りの密度」は非常に高い

なんと、取材日の後半戦は、昨年はやった「デッドスロー」が強かった。齋藤さんは、そのパターンで猛ラッシュ。良型のツ抜けで次頭に食い込んだ

「食ってきたタナは53mだったよ」と教えてくれた常連さん。食いダナを教えあえば、船全体の釣果もアップする

「いや~難しい。やっと両目が開きましたよ(笑)」とは、太田さん。それでもまた釣りたくなるのが「テンタチ」というゲームなのだ

今回、取材にご協力いただいたのは、神奈川・金沢漁港「鴨下丸」
晩夏の投入毎にアタリが出る時期は終わったが、東京湾の「テンタチ」は、まだまだ熱いシーズンが続いている。
おなじみの走水沖周辺で、よりテクニカルな展開が人気を呼び、エサを使うタチウオ釣りでは、いまやこちらが主役となっている様相である。
「昨シーズンは、11月頭に本牧へ魚が抜けた時期に魚が細かくなったから、一時休止したけど、今シーズンは11月中頃から、また大きいのが釣れ出したからね、予約がある限りテンヤの船も出船するよ」とは金沢八景「鴨下丸」の高山将彦船長。
「鴨下丸」では、平日はテンヤ&テンビンの同船で出船しているが、週末はテンヤの船を分けて出船しているそうだ。
10月中旬の取材日前後は、トップ10匹前後の模様だったが、誘って食わせ、より大型が狙えるテンヤの人気は健在で、取材日は全員がテンヤでの釣りだった。
「いまのテンヤ釣りは、簡単にはいかない。だからこそ面白いんです」とは、がまかつフィールドテスターの田中義博さん。
ロッドの使い分けや「バイブレーション」や「Dトゥイッチ」を実演しつつ、なかなか難しいトップ11匹の模様のなかで120㎝を頭に8匹の釣果を上げてくれた。
やり込むほどに奥が深い「テンタチ」ゲームからは、これからもまだまだ目が離せないのだ。
以上の記事は「つり丸」2021年11月15日号の掲載記事です。
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