エゾイソアイナメ(タラ目チゴダラ科チゴダラ属)の生態

北海道~三重県の太平洋沿岸、北海道南部~山口県の日本海の水深数十mまで。近縁種のチゴダラと非常に似ている。見た目ではまったく区別がつかない。生息域も重なるため、獲れたた水深で判断する。例えば東京湾の水深30m前後までなら本種、それ以深ならチゴダラと考えている。
呼び名では三陸から千葉県内房あたりまでの「どんこ」がいちばん知られている。こまったことに、この呼び名が知られるにしたがい、駿河湾以西の深場であがるチゴダラまで「どんこ」と呼ばれるようになって、流通の場を混乱させている。ほかには「ぐぞう」、「すけそう」、「のどぐさり」などの呼び名もある。
東京都や千葉県では地味な雑魚でしかないが、三陸では明らかに高級魚である。漁法も釣りやカゴ漁がさかんで。とれたら必ず生きた状態で持ち帰り、たたきで食べ、肝たっぷりの「どんこ汁」にする。
エゾイゾアイナメの値段は?
残念ながら関東では安い魚の代名詞。1㎏あたり500円から高くても800円くらい。300gのやや大型サイズで、鮮度がよくても240円くらいしかしない。釣り味は悪いが、食べたら最高。魚の値段は味とは関係ない、そんな例なのだ。
「エゾイソアイナメ」の寿司…口に放り込む。すぐ肝の甘さが舌にきた

七月上旬、『市場寿司』で朝ご飯を食べていたら、小さなクーラーを下げた、ご近所のKさんがやって来た。ふたを開けると、手のひらサイズの魚がぽつんと一尾。
「これ食べられますか?」
「どこで釣りました?」
「東京湾です」
「エゾイソアイナメですね」
たかさんが食べ方をいろいろ伝授しているのを見て、店を後にした。
その日は慌ただしくて、午後には三陸に向けて旅に出た。東北自動車道を北上して、実に十時間もかけてたどり着いたのが岩手県久慈市。早朝、久慈港で水揚げを見て、昼から県や市の方と打ち合わせをした。
そして夜は久慈の海の幸でいっぱい。しめたばかりのアイナメが、どんこのたたきがうまい! 久慈の地酒「福来」がまたうますぎる!
被災地に来て、ふっと気がゆるむ、そんな一瞬である。
さて、『市場寿司』でエゾイソアイナメを見たその翌日、岩手県の最北部、久慈でもたくさんのエゾイソアイナメの水揚げを見て、そのエゾイソアイナメ、すなわち「どんこ」のたたきを食べている。奇遇だ。
三陸名物「どんこのたたき」は、細切りの刺身に、生の肝をさっと和えたもの。上品だけど、うま味が少ない身に、たっぷりのうま味・甘味のある肝が相まって実にうまい。地酒「福来」がクイクイいけてしまう。
帰宅しても残る、「どんこ」の味の記憶に、矢も盾もたまらず鮮度のいい上物を築地などで探すが、ない。
梅雨明けの猛暑のなか都心を歩きながら思わず、久慈の魚屋さんに「どんこ」を送っていただくことに。
「たたきかー、こっちで食っていかったっても、送ったらだーめだー」
「だめなら、汁にします」
ということで届いたのは久慈沖で釣り、活魚だったものをしめてすぐに送っていただいたもの。
関東では絶対に手に入らない上物だが肝を生で、とまではいかない。軽く湯通しして、細かくたたいた身と和えていただく。やはり三陸久慈の味には及ばないが、非常に近い。
残念なのは、まだ朝の九時過ぎで酒には早すぎること。たかさんにお願いして、これを軍艦巻きに。
しょうがのしぼり汁としょうゆを数滴落として、口に放り込むと、いきなり肝の甘さが舌にきた。その上、たたいた身にちゃんと食感が感じられる。この小振りの軍艦巻きをつまみだしたら、もう止まらない。
すし飯と合わせるには、種にそれ以上の味の強さが求められる。「どんこのたたき」はすし飯の強さを圧倒して、実にうまい。
三陸では肝と身、みそとタマネギを合わせてたたいたものを「みそたたき」という。外房でアジやイサキで作る「なめろう」と同じものだ。
岩手県の魚屋さんは「どんこのみそたたきは、そのままもいいが、実は焼いた方がいい」という。この「焼きみそたたき」も絶品だった。
七月なかば今度は大阪で飲み会があり、数日ぶりに昼下がりの『市場寿司』に行くと、猛暑で大汗をかいているのに、熱々のみそ汁が目の前に。たかさんの「ちょっと濃いめだから」と言うのを一口すすると、これがメチャクチャにうまい。
「なに、これ?」
「どんこのあら汁だよ。肝なしの」
なんと今朝またKさんがエゾイソアイナメを持って来た。前回よりも大漁で三尾もいたので、「どんこのたたき生肝版」を作った。
「これがさ、超うまいの。やっぱりどんこは東京湾に限る」
朝から、たかさんとKさんが「どんこのたたきの軍艦巻き」で、大いに盛り上がる。そしてボクには肝なしのあら汁を出し、ニッコリ。土産の豚まん、持って帰ろうかな?
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2014年9月1日号の掲載情報です。
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