ショウサイフグ(フグ目フグ科トラフグ属)の生態
東北以南の太平洋、東シナ海に生息する。体長35センチ前後になる中型のフグで、ときに近海でまとまってとれる。
江戸時代以前から江戸前の海でとれるのでなじみ深い魚だった。松尾芭蕉が怖々食べた「ふぐと汁」はみそ汁のことで、この場合の「ふぐと」は本種のことである可能性が高い。漢字で書くと「潮際河豚」だが、これが元来本種に対する呼び名かは疑問が残る。クサフグの地方名にも「ショウサイフグ」があり、「潮際」が「波打ち際」と同義語なら波打ち際に群れて産卵するクサフグの方が当てはまるのである。市場では「名古屋河豚」とも呼び、食べたら死ぬ(終わる)ので「尾張名古屋」にかけている。
東京のフグ店では1にトラフグ、2にアカメ(標準和名のヒガンフグ)、3に本種という。ようするに「一番安いフグ」という意味。実際、1、2が高級魚なのに対して値段がかなり下がる。
本州以南、四国九州、東シナ海。朝鮮半島南岸・東岸に生息している。
6月、7月に浅い砂地で産卵期する。全長30cm前後になる中型のフグだ。
卵巣と肝臓は猛毒、皮膚と腸は強毒、筋肉は無毒か弱毒、精巣は無毒だ。
ただし本種をはじめフグ類の調理は、船宿やフグ調理師にお願いすること。
ショウサイフグの値段は?
天然トラフグが1キロあたり1万円の高値をつけるのに対して、せいぜい1キロあたり1500円が相場。やや大振りの500グラムサイズで1尾750円前後。釣りたてのものなら決してトラフグに負けない味。お値段以上の価値があると思って頂きたい。
フグはトラフグ、ヒガンフグ、マフグ、ショウサイフグ、サバフグの順で高い。
本種は比較的安くておいしいフグとされていて、市場では1㎏あたり卸値1500円前後が相場である。
1尾300gで卸値450円は魚の中では高級である。
堪能するには1人前4、5尾は必要だから、買うより釣りだ。
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「ショウサイフグ」の寿司①…小才フグじゃない。大才フグだ!

最近、自宅仕事が立て込んでいるので、昼はご近所で外食している。
久しぶりに八王子最長老すし職人、忠さんのところへランチを食べに行く。今時のすし屋では珍しい煮いかや自家製のおぼろなど、昔ながらのすしが食べられるのが、忠さんの店の魅力だ。「ランチ」をお願いすると、お決まりの握りのなかに、「あれ?」と思うものがある。
「これ忠さんが釣ったの?」
「違う、違う、市場で仕入れたヤツ。ウチでも許可を取ったんでな、夜、フグを出してるんだ」
「これショウサイでしょ?」
「そう。握り用じゃなくて、宴会の鍋に使うための、なんだけど、思ったよりも鮮度がいいんでな」
「味はまあまあだけど、もう少し、水分抜いた方がいいかな」
「そうだな。やっぱし釣ったヤツの方がうまいか。ウチの(孫)に頼んで釣って来てもらうか」
七十半ばになって、忠さんは、長年通っていた海釣りをやめてしまった。代わりに最近は「孫が海に(釣りに)行くようになった」のだとうれしそうに言う。
寒い時期には外房へフグ釣りに行くという人は多い。時季には二度や三度は、お裾分けをいただいている。これが市場にあるのとはまったくの、別もの。へたなトラフグが裸足で逃げていきそうなくらいに味がいい。ところがなぜか、今年はショウサイフグには恵まれない。
お裾分けは昨年以上にあるのだが、そんなときに限って、都心に泊まり込んでいたり、親戚に不幸があって帰郷していたり。
忠さんのところで食べたのが、今期初ショウサイフグなのである。これでますます釣りものが食べたくなった。と、思っていたらすぐにその機会が訪れたのである。
小雪が舞った翌日、市場を歩いていたら仲卸のクマゴロウが、おいでおいでと手招きする。「なんだろう?」と店に入ると、「これやるよ」と手渡されたのがショウサイだったのだ。「これはいったい……」。
「フグチョウ(フグ調理師)仲間と釣りに行ったんだ。オレらフグは扱うけど、意外にどのへんで獲れるとか、漁のこととか知らないからさ。仲間に声かけて行ったのよ」
釣り具一式釣り宿で借りての、初体験の釣りだったというが、全員大漁にめぐまれたのだという。
さすがにフグ調理師、フグの扱いの丁寧さは見事としかいいようがない。一本一本さらしに包み込まれた半身にはまだ透明感が残っている。これを『市場寿司』に持ち込み、そのままで、大根おろしとポン酢をかけて、表面をあぶってと、あれやこれや握りに仕立ててもらう。
「たかさん、全部うまいね」
「そうだね。今日のトラ(フグ)よりうまいな。ショウサイは柔らかいってのも、間違いかもね」
鮮度がいいのにしっかりうま味が感じられるのも不思議だ。一番気に入ったのが表面をあぶった握り。焼いた風味がなんともいえない。
これを三日間食べ、三日間とも感動的にうまかった。
「小才フグじゃない。大才フグだ」。ときどき『市場寿司』にやってくる書道の先生が粋なことを言った。
ちょうど一仕事が終わったときなので、『市場寿司』の店じまいの遅い午後、クマゴロウもよんで、あらのふぐちりで、栃木県日光市の銘酒、「清開」純米酒を飲む。
そこに通りかかったのが、そば店店主、超ベテラン・天才釣り師の浅やん。クマゴロウの「オレも釣りはじめるよ」の一言がいけなかった。釣り具の買い方から、釣宿の話まで長々と、永遠に話は終わらない。
「たかさん、早くお宅の美人妻、迎えに来ないかなーーー(涙)」
以上の記事は「つり丸」2013年3月15日号の掲載情報です。
「ショウサイフグ」の寿司➁…一週間寝かせたショウサイのあぶり。絶品の味!

下町の居酒屋でフグの鍋、ビールに日本酒で友人と静かに乾杯。
久しぶりの外飲みは楽しい。店主は釣り師で、その上、フグ調理師だ。
我らのテーブルにやって来て、フグの刺身を差し出して友人に、「鍋はショウサイ、刺しは『あかめ』だよ。もちろん釣ったのはオレ」
「もうそんな時季なんだね。コロナのせいか、時間が立つのが早い」
最近、都心に出る機会が多い。
なぜかアイドルに会い、柳家小三治の死を知り書店に駆け込み関連書籍を大人買い。
選挙とか、最終電車乗り遅れとか、いろいろあった。
疲れがどことなくたまった十月に、小鍋仕立ての「ふぐちり」って最高だと思う。
青みが葛飾区産の小松菜というのもうれしい。
「焼き豆腐が入ってないね」
「十一月からだよ。またおいで」
焼き豆腐は立冬を過ぎてから、というのが下町らしいところ。
面白いもので気温が下がると途端に、釣り師たちもフグが恋しくなるようだ。
今年はなぜだかヒガンフグが多い。
釣りの世界では「あかめ」と言うが、標準和名のアカメフグがいるのでまぎらわしい。
十月半ばに、山口県萩の魚屋さんにヒガンフグをいただいた。
「シゴしてますけん。鍋にでも」
山口県日本海側では、魚を下ろすことを「しご」という。
毒の除去をし、ていねいに晒しに巻いてある。
しかも、一緒に萩の銘酒も入っているではないか。
鍋にするにはもったいない気がして、昼下がり、『市場寿司』に持ち込んで、たかさんにつけてもらう。
二時過ぎなのにお客さんが残っている。
このところ繁盛している模様だ。
釣り上げて三日目だというのに、まだ身が硬い。
「あと三日だね。今日はこっち」
ネタケースからあぶった切り身を取り出してつけてくれる。これが絶品。
秋になってフグは散々食べているが、ダントツのうまさだ。見ただけでは種類がわからない。
「ヒガンフグかな?」
「ブッブー、ショウサイだよ」
「っていつのショウサイ」
「この前、いっぱいくれたヤツ」
三重県の釣り師が、伊勢湾で試し釣りで上げたものだ。本当は彼が釣り上げたセンニンフグ(食用不可)が欲しかっただけなのに、本命のショウサイフグも大量にくれたのだ。
不幸なのは市場の釣り名人、クマゴロウである。たかさんは、フグ取り扱い届は出しているが、残念なことにフグ調理師免許は持っていない。
ということで、フグ調理師のクマゴロウが、お金にもならないのにせっせと下ろすことになる。
そしてたかさんとボクは、なんの苦労もなくフグを堪能するのだ。
ということは、目の前の二かんは、一週間も前に三重県から送られてきたものだ。
来た日の握りも非常に味わい深かった。
そして一週間も経っているのに見た目からしてやたらにきれいなのだ。
ボクが持ち込んだ故郷徳島の、すだちの香りもいい味のアクセントになっている。
塩をちょんと乗せて、口に放り込む。
「一週間も経つのに。来た時よりもダンチにうまいね。あと五かん」
珍しく若い女子が来ていたので、あぶりをごちそうする。
一人が塩でつまんだところまではよかったが、もう一人がすごかった。
小皿に醤油をたっぷりと満たし、そこに握りを入れて、一飲みにしたのだ。
たかさんが笑いながら、
「醤油女子に会うの初めてかな。これでも魚の良し悪しにうるさいよ」
マネをしたらすぐにでも極楽に行けそうである。
面白いのでもう一かん。また醤油とともに飲み込む。
「おいしいと思います。フグはある程度寝かせた方がおいしいですね」
すしの食べ方にルール無用、だ。
以上の記事は「つり丸」2021年11月15日号の掲載記事です。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
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フグの中では安いほう。でも高級魚だ