アカムツ(スズキ目ホタルジャコ科アカムツ属)の生態

北海道から九州南岸、大東諸島まで。海外ではフィリピンやインドネシア、オーストラリアまでと非常に生息域の広い魚である。アカムツというと日本海や関東周辺、駿河湾というイメージなので改めてビックリする。標準和名は東京の築地などでの呼び名。関東で脂の多いことを「むつっこい」ということから「赤い脂の多い魚」という意味。山陰から山形県までの地域では腹腔膜や喉の部分が黒いので「のどくろ」という。島根県では小型を「めっきん」といい成魚の「のどくろ」とは区別している。
新潟県などで作られる郷土料理「喉黒のみそ焼き」は実に美味しくて、人気が高い。本種のことはいろいろ調べているが生食するようになったのは比較的新しい。
アカムツの値段は?
キロあたり1万円を超える魚はめったいに存在しない。東のキチジ、西のアカムツと、二大赤い高級魚と並び称することがよくあるが、どちらもキロあたり1万円以上つくことはざら。200gサイズでも1㎏あたり2000円以下にはならない。
アカムツの釣行レポート
数はもちろん、良型もまじり、アカムツ釣り初心者でも高確率で釣り上げることができる。「カンネコ根のアカムツは9月に入って例年どおりの開幕になりました。ポイントも広範囲なので、10月の本番時期はますます期待できますよ」と話す、波崎「ひろの丸」廣野正船長。
「今年も例年どおりカンネコ根でアカムツがシーズンインしましたね。この数ヵ月は誰にでも本命が釣れますし、数においてはテクニックで差が出ます。大変楽しめる季節です」と話す、波崎「信栄丸」の浮島和雄船長。
「カンネコ根は犬吠埼沖の深場のアカムツフィーバーが落ち着いてからすぐに始めたのですが、初日から50㎝級が顔を釣れました。サイズが少し小さめですが広範囲にアカムツがいるので、今シーズンはまずまずだと思いますよ」と話す、昨年から絶好調の釣果をたたきだしている波崎「浜茄子丸」の堀田正巳船長。
「アカムツ」の寿司…口に入れてトロッととろけ感がある

梅か桃か、桜かはわからないが、あっちを見ても、こっちを見ても花咲き誇る時季だ。そんな春爛漫を感じさせる、ある晴れた日に「駿河湾で釣りました」とアカムツを持ち込んで来たのが、ご近所の釣り師、ナミさん。「すし飯少し残しといて」とたかさんに電話。押っ取り刀で駆けつけてきたのだという。
その駿河湾産アカムツがちょうど、たかさんの手のひらほどのサイズ。とても腹の出た個体で、秤にのせたらほぼ二百グラムある。
「お、このデブだれかにそっくり」
たかさんが鱗を取り、水洗いしているのを見ていたナミさん、
「魚は太っている方が美男子なんです。オニカサゴよりも太りすぎのアカムツの方が偉い。人間の太りすぎはダメだけどね。ふふふ、ふふ」
何を言っているのだか。最近のナミさん、そしてお神酒徳利のナギさんまで変である。二人とも会社員なので、異動でも決まって、情緒不安定なのかも知れない。
小振りではあるが、この小アカムツが実にうまい。釣って間がないのに軟らかいのは、ナミさんの扱いの悪さのせいかも知れないが、実にうま味が豊かである。当然、アカムツならではの脂からくる甘味も強い。
さて、このところ長旅が出来ないので、愛知県に気晴らしの一泊旅に行ってきた。港で競りを見ていて、知り合いの漁師さんにお土産にもらったのが、これまたアカムツ。「たかさんにもどうぞ」と言ってひふーみよー、なんと七尾もいただく。
「こんなにいいんですか」。
「今年はえろう大漁だぎゃ」
愛知県の名物、うまいものをいっぱい食べて、その上お土産まで。まことに愛知はいいところである。
帰宅後に、『市場寿司』に立ち寄って、ほいっ、とアカムツを渡したら、五尾のまばゆいばかりを手にして、「ありがとうごぜえますだ、漁師様」と西の空を向いて拝む、拝む。
「おれ、アカムツは寒い時期の魚だと思ってたけど、春の魚なのかも」
三枚下ろしにする包丁が重いのだという。見せてもらうと脂が包丁を曇らせている。
「ボクも冬の魚だと思っていたよ」
これを刺身にして愛知の銘酒をやっていると、ナミさん、ナギさんのコンビが顔を出す。ということは、本日は土曜日だ。「歩きだから酒分けてよ」というのでコップに注ぐとぐっと一気に飲み干し「う、めー」。
刺身を出すと、ナミさんが
「おれ、アカムツの似合う男になったんだ。それ相応の、というかさ」
ようするに出世したらしい。たかさんが名刺を見て、「なんとかイノベーションなんとかマルマルマルチーフマネージャー」とぶつぶつ。
まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく愛知のアカムツがうまい。口に入れてトロッととろけ感がある。ずらり並べてつまみ始めると、やめられなくなるうまさだ。
ただ、恐るべきことにナミさんの釣ってきた小アカの方が、味が上だ。あれはただのアカムツだったのだろうか? サクラマスに突然変異的に体高の高い肥満したタイプがいる。これを「板マス」と言って珍重するのだが、アカムツにも「板アカムツ」的ものがあるのかも。
「むむむ、ナミさんがなんとかイノベーションマルマルマルチーフマネージャーなら、この前釣ってきたアカムツは社長ってことだな。ナミさんも早く社長になりな」
「社長なら川に落ちても助かる」
さて、三月になった途端、島根からどっさりアカムツが届いた。これは味見用に、とのいただきものなのだけど、水産技術センターでは春のアカムツの脂を測っている。これが驚異的な脂質の高さなのだという。やはりアカムツは春の魚なのだな。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2015年4月15日号の掲載情報です。
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