イシガレイ(カレイ目カレイ科イシガレイ属)の生態

沖縄県を除く日本各地の浅い砂地に生息している。ただし鹿児島県では少ない。千島列島や渤海などにもいるが、日本列島が生息域の中心で、漁獲量も我が国がいちばん多いのではないかと思われる。非常に大型になるカレイで過去に福島県で1m近いものを見ている。
標準和名は石状骨質板(石状になった鱗)を持つことからで分かりやすい。「ごそがれい」と言う呼び名もあるが、これは触ると鱗がゴソゴソするからだろう。「しろがれい」は裏側が異常なくらい白いから。
さて、魚類学の父、田中茂穂は「東京では東京湾内で取れたものをカレイ類中最も美味とし、東京で単にカレイというと、イシガレイの事である」と書いている。ことほどさように本種がいちばん高いのは東京である。春から初夏の築地場内で本種がないと困るという仲卸は多い。ただし高価なのは活魚もしくは活け締めにしたもの。野締めはただでも売れない。
イシガレイの値段は?
活け締めもので1キロあたり卸値2000円前後。1キロもので1尾卸値2000円はする。活魚ならその3倍はするので、超高級魚である。もし釣れたらバタバタさせないで大急ぎでしめて、丁寧にお持ち帰り願いたい。
イシガレイの釣行レポート
「植田丸」の植田竜也船長も「カレイは海さえ穏やかなら間違いなく釣れます」と自信ありげ。ショウサイフグのカットウ釣りでもゲストで多い人は10枚ほど釣っているというから、今後が楽しみだ。これから6月ごろまで、型&数釣りが楽しめる。
「イシガレイ」の寿司…そっけないくらいに上品な味である

久しぶりに渋谷に出た。驚いたことにまるで初めて来た街のようになってしまっていた。打ち合わせに来た相手が意外や若い女性だったので、意味もなく浮き浮き。彼女がコートを脱ぐとピンクベージュのミニワンピ。じ、実に可愛〜い。春を通り越して夏って感じ。打ち合わせにもなにもな〜りゃしない。
都心泊で翌日、築地場内を見て回っていたら、巨大なイシガレイがいる。そいつをぼんやり見ていたら、
「お買い上げだよ!」
知り合いの店長が見てる間に締めてしまった。「まだ安いからさ」。
キロあたり三千円で、三キロ弱なので、決して安くはない。この大散財も美しすぎる編集者のせいかも。これをそのまま築地の流通網にのせると、午前中には八王子の『市場寿司』に届くのだから、便利である。
昼過ぎに押っ取り刀で駆けつけると、なんとすでに半身がない。
「たかさん、そんなに急いで売ることないでしょ」
「イシガレイは出来るだけ早く使い切るってのが、すし屋の常識」
居合わせた八王子最長老のすし職人、忠さんに味見してもらう。
「おー、いいな。昔は必ず洗いにしてたんだけんど、刺身の方がうまいなっ。春なのに〜♪ 脂もある」
「カレイを洗いにしてたんすか、もったいない気がしますね」
「昔はな、カレイはなんでも洗いにするって決まっててな、ホシもマコもみんな洗ってた」
それが、たかさんが修業した七十年代には、すでにカレイを洗いにすることが珍しくなっていたらしい。
そこに釣り師の常連さんたちがやって来たので、すすめると、
「イシガレイ食べたことないっす」
といいながら、二、三かんつまむ。
「おいしいな。これ釣れます?」
「知らないのー。外房のフグ釣りでときどき来るんだよね。それがデカイんだよ。一メートル近いのがガツンとあたっていい引きなんだ」
「すごいですね。話半分でもかなりカッコイイ」
「一匹だけじゃないよ、連チャンでくるんだからね」
さてイシガレイの握りは、むしろそっけないくらいに上品な味である。口に放り込んで心地よい食感ではあるが「あれ、あれれっ」と、知らず知らずに味が消えてなくなる。
たかさん曰く、「これが白身のよさなんだよ」と言うがあっけなさ過ぎるように思えてならない。
しかたなく、二かんめを口に放り込むと、こんどは穏やかな甘さが広がるが、やはり爽やかなままで消えてなくなる。これは難しい。
「そりゃな、握りを一かん一かんちゃんと味わってねーからだ」
忠さん曰く、職人がいちばん恐いのは白身のわかる客だという。
「大トロ、中トロ言ってんのはこわくもなんともねー、下さ。白身のわかる人間がいちばん上」
四かんめでやっと、食べた後口のよさがわかってきて、五かんめで、一かん丸ごとのうまさが味わえるようになった。これはうまい!
「たかさん、白身のよさがわかった。オレってすしっ食いの達人?」
「五かん食ってわかるんじゃダメ」
午後二時、市場のすし屋の閉店時間だ。イシガレイの刺身で冷や酒を一杯。結論として白身のよさは、落ち着いて味わわないとわからないのだ、ということがわかってきた。
翌日、朝ご飯に残りのイシガレイを握ってもらったら、うま味がグンと増えてむしろ昨日よりもうまい。
さて、昨日の釣り話で、いつの間にかボクは大イシガレイを釣った名人として、八王子の一部地域で有名になってしまったようだ。
まさか今更、釣ったところを見ただけ、とは言えそうにない、なー。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2015年5月1日号の掲載情報です。
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