マアジ(スズキ目アジ科マアジ属)の生態

北海道全沿岸から沖縄本島周辺までの沿岸に生息。昔は北海道のマアジは「伊達もの」と言われ、太平洋側の内浦湾伊達市周辺だけが産地だったがオホーツク海でも揚がるように。これも温暖化の顕著な例かも。
漢字「鰺」は魚へんに「参(さん)」で、旧暦の3月に水揚げが多いためだ。旧暦の3月は現在の4月に当たる。今では年間を通してとれるマアジの最盛期到来である。
関東の市場では仲卸店にアジ担当がいる。それほど流通の世界でマアジは重要なものなのだ。このアジ担当は主に長崎県や山陰などの大産地からくる比較的安いものを扱っている。それに対して仲卸に上物ばかりを扱う専門家がいて、彼らが取り扱うマアジもある。例えば大分県佐賀関の「関あじ」や淡路島産などのブランドものや、関東周辺でとれた近海ものだ。
マアジの値段は?
相模湾や東京湾(江戸前)のマアジは非常に高価である。例えば相模湾に面した三浦半島佐島のものは卸値で1kgあたり3000円前後もしている。とすると相模湾のアジ釣りなどで釣れるやや大振りの300g前後だと1尾900円にもなる。相模湾へ釣りに行くと千円札を釣っているようだ、と言った仲卸の釣り人がいるが、これも真なりである。
マアジの釣行レポート
猿島沖から観音崎沖にかけてが「小金丸」が得意とするフィールド。いまそこが絶品中アジ、中型幅広肉厚タイプが釣れるポイントだ。釣果は船長の潮の読みと釣り場選びに左右される。だから、周年ビシアジ専門乗合のこの「小金丸」に乗船すれば安心だ。
「立て続けに来た台風の影響で、一時食いが落ちて、今も海は変な感じなんだけど、回復に向かっているんじゃないかな。ここんとこトップで50匹を超す釣果が続いているし、ビギナーでも20匹以上釣っているからね」とは、当地で周年アジを狙う「前田丸」の前田悦男船長の言葉だ。
知名度が高く、身近な存在のマアジ。お手軽でありながら、やり込んでいくほどに奥は深く、ビギナーからベテランまで幅広い層に楽しまれているターゲット。そのアジ独特の小気味良い引きを楽しもうと3月11日に走水港「政信丸」へと釣行に出た。
「マアジ」の寿司…殊更に脂が乗っているわけではないが味が濃い

桜が満開になった途端、あちらこちらからマダイが届き始めた。瀬戸内海では「魚島の鯛」などと言い、マダイが島を作るがごとき大群で浅瀬にのっこんで来る。この瀬戸内海は明石産がうまいと感激していたら、今度は鹿児島県からも来て、贅沢な話だが食傷気味である。
春は別れの季節でもある。学生時代の友人に、絵に描いたようなエリートコースを歩んできた、まじめ君がいる。飲みに誘われて下町の居酒屋で落ち合ったら、早期退職で群馬県に帰るという。しみじみと昔話をしていたら、別れ際に「初めていけないところに行ってきたよ」と言う。
「キャバクラかい」
「いやもっといけないとこ」
女性がいるスナックにすら行ったことがない超まじめ男の言う「いけないところ」とはどこだろう?
「どんなところに行ったの?」
「教えない。でもずーっといい夫、いい父親やってきたから、新鮮だった。人生変わるかも……」
群馬県はそんなに遠くはない。お別れではなく、これが言いたかったのだろう。「まじめ君またな!」。
翌日、朝ご飯を食べに『市場寿司』行き、まじめ君の話をしたら、
「定年だろ。普通、そっちは卒業する時期だけどね。面白いね」
ぽんと目の前に来たのは「鰺の酢じめ」だった。マアジは酢で締めるのが江戸前ずし本来の仕事だ。さっぱりしていておいしい。
市場で干ものや鮮魚を扱っている釣り名人の福さんが、茅ヶ崎から出船、瀬の海で釣り上げたもの。
「このところ毎週だね」
「アジだけじゃないよ。アマダイにホウボウだろ、これなんだっけ」
「ヒメコダイだね」
「茅ヶ崎っていろいろ釣れるねー」
「場所じゃない、釣り方だね」
福さんに釣り方を聞くと、エサはオキアミでコマセなしの五目釣り。底をねらうとアマダイなど底もの、タナを上げるとアジが来るという。
「おれはいろいろ釣れる方が好きだからさ。今、五目ばっかり。今週も行くから待っててよ」
期待して待っていたら、週明けにはちゃんと色とりどりの獲物が『市場寿司』に届いていた。アマダイにマアジ、ヒメコダイにカナド。アマダイは一キロ近くあるし、マアジも形が揃っていて大きい。
「三百(グラム)くらいあるから、好きなサイズじゃないんだけど」
なぜか、いのいちばんに出てきたのがマアジの握り。しょうがの搾り汁を一滴落としてある。隣のお客から「お!」っと声がもれる。見ると同じくマアジの握りだ。
「このサイズだと切りつけないとダメだし、大味かなと思ったんだ」
「けど、大味じゃないね。別にことさら脂が乗っているというわけでもないのに味が濃いね。うまい!」
「アジって不動の一番打者かもね」
アマダイもマダイも握ってもらったのに、いつまでもマアジを食べていたい。ありきたりで平凡なこの魚が、舌をふるわせるほどうまい。
「北海道だ、沖縄だって珍しい魚もいいけど。平凡な魚にはかなわない。オレも平凡でまじめになりたい」
「これ食ってると同級生のまじめ君を思い出すよ」
「まじめオヤジだろ。そいつどんなところに行ったんだろ。うふ……」
まじめは化けるというか、芋虫こそが美しい蝶になれる。マアジは毎日のようにネタケースにあるから、ついつい忘れがちだけど、改めて味わってみると「すごいなー」。
今日は一日、自宅で仕事だ、というとたかさんが細巻きを持たせてくれた。なんとマアジと大葉の細巻きで、これがまたうますぎる。握りよりも上かも知れない。
「二本じゃ足りないよー」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2016年5月1日号の掲載情報です。
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