エビスダイ(キンメダイ目イットウダイ科エビスダイ属)の生態

青森県から屋久島までの浅場に生息している。イットウダイ科は主に亜熱帯、熱帯域に多い中、もっとも北にまで生息域を広げたのが本種だといえそう。群れを作らず、生息数自体も少ないのだろう、珍しいというほどでもないが、漁港に水揚げされても1尾、2尾ということが多い。
明治期から昭和初期に長崎県などでとれた魚類を絵図にした倉場富三郎の『日本西部及び南部魚類図譜(グラバー図譜)』にエビスダイの名がある。これは頭を上にしてぶら下げたシルエットがえびす様のようだからだと思う。「かげきよ」ともいうが、有名な歌舞伎の登場人物、景清の装束が赤いため。鹿児島県などの「鎧鯛」は鎧のように硬い鱗からでわかりやすい。
エビスダイの値段は?
流通する量が少ないために関東では一定の評価はない。ある店では買い手がつかず、捨て値で売っていたし、やたらに高いこともある。この高値は「赤い魚は高い」という市場原理のためついたものらしい。この3月、4月に購入したときの値段は1キロあたり1500円~3000円。平均すると2000円なのだから高級魚といっていいだろう。1キロサイズでジャスト2000円。釣れたらえびす顔だろうね。
「エビスダイ」の寿司…二、三日置くと、硬さは程よく、うま味が増す

水産物を調べて、データベースなどを作っていると、ときどき弱点というか、情報の少ない魚を見つけることがある。四月上旬、分類学の方と話をしていて、熱帯に多いイットウダイ科エビスダイの仲間のことで盛り上がった。このときは分類の話をしたわけではなく、味の話ばかりだったのだが、帰りしな「そういえばお宅のデータベースに二・五ありませんね」と言って帰って行った。
これを説明すると、魚の同定をするとき、側線から背鰭までの鱗の数が検索項目としてよく出てくる。この鱗の数が三・五枚なのがエビスダイとヒレカタエビス。同属のカイエビスとオキエビスが二・五枚なのだ。
さて、これ以後、築地市場などでも、エビスダイがあるたびに鱗を数えた。それを聞きつけた地方の魚屋さんたちからも送ってくれるようになったが、なかなか「二・五枚の壁」が超えられない。やってきたのがエビスダイだと自動的に『市場寿司』行きとなるのだが、ある日、
「もうコイツはいらねー」
とたかさんが露骨に嫌な顔をするのである。いらない理由は味ではなく、全身を覆っている硬いガラスのような鱗にある。鱗を取るには鱗と皮の間に包丁を入れてすき引きする方法と、鱗ひきでバリバリ剥がす方法があるが、本種の場合どちらも大変なのである。
「一日二本もやったらヘトヘトだ」
よく考えてみると同じ日に鹿児島県産を三尾渡したこともある。これじゃ還暦オヤジには辛いだろう。
「大変だよね」といいながらまた一尾渡したら、目がつり上がってもどらない。「お客が怖がるから穏やかにいきましょ」となだめてもダメ。
鱗引きの苦労はさておき。エビスダイは実にうまい。身はほんのりと赤みがかっていて、うま味、甘味が豊かである。鱗下に赤い皮があるのだけど、その皮自体にも味がある。下ろした初日は少し硬いが二、三日置くと、ほどよい硬さになり、うま味がぐんと増すのも魅力だ。
「たかさん天国に行ったら、神様にエビスダイの鱗もっと軟らかくしてくださいってお願いしてよ」
「人を殺すんじゃない」
やっと本命のひとつカイエビスが、鹿児島県からやって来たのが四月二十日。後はヒレカタエビスとオキエビスがくれば完璧である。が、これほどの珍魚がそんなに簡単にくるわけがない。
たかさんが魚屋のまな板を借りて、エビスダイの鱗をバリバリ。鱗を店の隅から隅まで掃き取り、やっと終わったと思ったら、もう一本。何を思ったのか、小さなお菓子の箱に鱗を入れて店に飾り始めた。
「いつもこの魚ありますね」
常連さんの多くが気づいて、当然のごとく、味の虜になった。釣り師の方が、箱の鱗を触りながら、
「釣れる魚ではありませんよね」
「和歌山の知人がボート釣りで上げて、“これなに?”って聞いてきたことがあるんです。釣れますね」
「へー、こんな宝石のような鱗の魚が釣れたらうれしいだろうな」
「うれしくねー。大変なんすからー。(体をよじり)もうイヤ、イヤイヤ」
「たかさん、イヤイヤはわかるけど、すしネタとしてはどう思う?」
「味は最高だよ。皮霜造りと皮を引いたのと両方出したけど、握りの完成度は皮引き、味は皮ありだね」
「ボクは断然皮ありがよかったな。見た目もキレイだし、うまいしね」
生だけではない、この魚を主役にした鍋がとてもうまかったし、塩焼きも、煮つけにしても最高だった。たかさんには鱗引きで、もっと頑張ってもらわなくてはいけない。
ご機嫌もなおったようなので、店の横にエビスダイ二尾入りの発泡を置いて帰る。「がんばってね!」。
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2015年6月1日号の掲載情報です。
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