カスリハタ(スズキ目ハタ科マハタ属)の生態

和歌山県、高知県、鹿児島県屋久島などでも見つかっているが、主な生息域は奄美大島以南の岩礁域やサンゴ礁域。ハタ類でも珍しい種。大形になり、過去に知り合いの釣り人が石垣島で釣り個人的に測ったものに全長1.6mがある。泳がせ釣りに来たとのことだが、うらやましい限りだ。
標準和名のカスリハタは体側の斑紋が織物の「絣」が織り出す代表的な模様に似ているためだ。英名は「Potato grouper」で「ジャガイモ形の斑紋があるハタ」という意味。沖縄県では単に「みーばい」、鹿児島県では「あら」と呼ばれている。
カスリハタの値段は?
ほぼ沖縄県と鹿児島県奄美大島だけでとれるハタのひとつで、関東ではめったに見かけることはない。当然、本種に一定の評価はない。ただし基本的にハタ類は総て値が高い。過去、12月のいちばん魚価の上がる時期に見かけたことがあり、5kgサイズでキロあたりの卸値が40000円ほどだった。ちなみにこれはハタ類の5㎏級の平均的なものだ。近年あまり大きすぎるものや、3㎏以下はあまり値がつかないので、この3~5㎏がいちばん高価だ。春には卸値3000円前後に下がる。それでも今回の3㎏サイズで卸値9000円はする。
「カスリハタ」の寿司…二かん、三かんつまんでも飽きが来ない味だ

久しぶりに帰った故郷・徳島ではすっかり田植えが終わっていた。季節の移り変わりは早い。近所の釣り人からいただく魚も、春ものから徐々に夏ものに代わりつつある。
昼下がりの『市場寿司』で無駄話をしながら、たかさんに「アジの細巻き」を作ってもらっていたら、「あ、そうだ」とネタケースの端っこにあった、晒しに巻かれたものを取り出してボクに見せた。
「どう?」
「どう、って何が」
「これ、この前のハタなんだけど」
「この前のって、一週間も前のだよね。大丈夫かな?」
「だまされたと思ってつまんでみな。あとこれだけだからさ」
これが微妙だった。一週間前よりも味わいは遙かに奥深く、複雑かつ濃厚になっている。強い甘味に、うま味が舌を刺激して心地よい。
「でも先週の方がよかったねー」
「なぜよ。圧倒的に今日の方が上だろ。先週は味がなかったよ」
「でも魚の味って、うま味や甘味だけじゃないでしょ。先週の方が見た目も食感も、後味もよかったよ」
「握りとしては今日の方が上だね。すし飯との馴染みも抜群だし」
さて、この少しだけ飴色になった魚の正体を明かすと、カスリハタなのである。本種は主に奄美大島以南のサンゴ礁に生息する大形のハタで、比較的珍しい部類に入るため、なかなか出合えないでいた。
ただし味は知っているのである。数年前、沖縄県那覇市の仲買さんから「釣り漁師さんが揚げたカスリハタがあります」と、連絡が入った。「ぜひ送ってください」と言ったら、「二キロくらいですけどいいですか?」とのこと。この二キロクラスがいちばん撮影しやすい。
期待して待っていたら、翌日、朝にちゃんと到着した。ところが箱を開けてみたら切り身だったのだ。仲卸に問い合わせたら、「三十キロ上ありましたので、店ですぐに解体しました」との返事。単に白い塊を刺身にしてうまさにビックリ、鍋にしてあまりのうまさにビックリした。
念のために写真を添付してもらったら、間違いなくカスリハタの超大物だったが、「カスリハタを食べた」という実感がどうにもわかない。
今回のものは奄美大島の釣りもので、手頃な三キロ級。しっかりとジャガイモ形の斑紋を確認してから撮影し、ちょうど一週間前に『市場寿司』に半身を持ち込んだのだ。
皮を引くと薄赤い血合いに真っ白な身で、切りつけて口に入れると少し甘く、うま味も淡いが、シコシコとした食感が楽しめて、実にうまい。「後を引くうまさだね」とたかさんに言うと、少し間を置き、
「ちょっと上品すぎるなー。味的にすし飯に負けてるよ。これじゃすしネタ失格だと思うな」
そんなことはない。一かんつまむとほんのり甘く、後味もよく、二かん、三かんつまんでも飽きが来ない味で、ボクには最上級の味に思えた。
さて、たかさんをひょいと見ると、二かん目を握っている。今度はネタがいびつで分厚い。これを口に入れたら、身の表面が実に甘い。厚みがあるためか、食感もいいのである。
「ハタは一週間程度さらしに包んで寝かせ、分厚く切りつけるといいってことだね。今度からそうしよ」
「バカ言ってんじゃないよ。ハタは小さくても一本、一万も二万もするんだぞ。そんなに分厚く切ったら採算合わね。もし都心で食ったら一かんが三千円も四千円にもつくだろ。三かんで消費税込みなら一万円だろ。楽にクラブ○×に行けるよ」
「まーだあんなところ通ってるんだ。モテるわけないのに。早く心も体もおじいちゃんになーれ!」
「なれませーん」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2016年5月15日号の掲載情報です。
雑誌つり丸(マガジン・マガジン)を販売中!割引雑誌、プレゼント付雑誌、定期購読、バックナンバー、学割雑誌、シニア割雑誌などお得な雑誌情報満載!