キダイ(スズキ目タイ科キダイ属)の生態

主に千葉県房総半島と山形県から九州南岸まで生息している。瀬戸内海にはいない。小さい頃は雌雄同体。成長すると、一部の雌は雄に性転換する。
主な産地は西日本、特に日本海西部。近年、関東でも使われている「連子鯛(れんこだい)」ももとは近畿以西での呼び名。ちなみに標準和名のキダイは東京都中央市場での呼び名。島根県では「ばんじろ」というがこれは漢字で「飯代」と書く。あまりに安い魚なので「米を節約するため飯代わりに食べたため」とのこと。別の見方をすると、ご飯のように毎日食べても食べ飽きない味の魚だ、とも言えそうだ。
キダイ(レンコダイ)の値段は?
今回のキダイは重さ400gで手のひらよりも大きいサイズ。実を言うとこのサイズがいちばん高いのは京都市。このサイズでキロあたり最低でも卸値1500円、ときに2000円以上になることも。安いではないかと思われるかも知れないが、魚は大きければ大きいほど高いので400gサイズで2000円以上になることは、非常に珍しいのだ。ちなみに東京築地場内で400gサイズは平均して1500円前後。決して2000円を超えることはない。ということで今回のキダイ300g1尾で600円ほどになる。
「キダイ」の寿司…皮には甘味があり、上品な白身ながら旨味がある

五月になり釣り師の方たちから魚をいただく機会が増えた。毎年この時期はシロギスをいただくことが多いのだが、今年はなぜかゴマサバやイサキが多い。
市場人のドイちゃんがライトタックルで釣りましたと、ゴマサバを持って来た。これが小振りなのにとてもうまい。ベテラン釣り師、ナギさんが釣ってきた、白子を抱えたイサキにも舌鼓を打った。たかさんは、たかさんで、「仕入れが少なく済んで助かるな」、なんて喜んでいる。
五月はいいことずくめ。「この好調が長く続きますように」と両手を合わせていると。つけ場の、たかさんがパチンコ屋の方を向きぱんぱんと柏手を打つ。なにを祈っているのやら、わかったものじゃない。
FBで知り合った蛸さんという正体不明の方がいる。ページに酒と釣りのことばかりを載せている。その釣果を見る限り、かなりの名人であるように思える。なぜ「蛸さん」なのかなど聞いてみたいけど、それも恐いし、と思っていたら、「今、魚持って行っていいですか」とケータイがかかってきた。いいもなにも「釣りの魚ならいつでも大歓迎です」と答えると一時間もしないうちに我が家の前に車でやって来た。
車から出てきたのは「蛸さん」というよりも「蟹さん」のような人だった。ふっくらした顔に浮かぶ笑いじわが実に優しそう。
「最近、州崎沖のカイワリやレンコダイ(キダイ)に凝ってまして」
と、いただいた濡れた新聞紙に包まれた魚が重い。「それじゃ」とあっという間にお帰りになったが、なんだかとても格好よかった。
さて、魚を包んだ新聞紙をひとつひとつ剥がしながらこみ上げてくる、このわくわく感って、なんだろう。出てきたのは、活け締めにしたレンコ、トゴットメバルに首を折られたゴマサバ。
これで日曜日の夕べの、我が家の食卓が、にわかにゴージャスになったのはいうまでもない。まるで我が家が三つ星レストランになったような、というと大げさだろうか。
翌日、『市場寿司』に持ち込んだら、たかさんの顔にも笑みが浮かぶ。差し出したバットに新聞紙に包んだ魚を入れると、丁寧に、丁寧に新聞紙をはがして、「活きがいいね」。
ほどなく出てきた握りは、レンコ、トゴットメバルの白身二かんずつに、ゴマサバ二かん。
「おー、今日もゴージャスだ!」
「握りとしての組み合わせもいい」
レンコダイは皮目に湯をかけて皮霜造りにして握ってある。トゴットメバルはあぶりと、生。
「やっぱり背の青い魚はうまいね。とくに皮をあぶったのが最高」
「そうかなー。血合いが茶色だろ。見た目からするとダメだね」
「たかさん、どれがいちばんなの」
「メバルといきたいけど、レンコかな。一見平凡な味だけど、握りとしてはこれがいちばん完成度が高い」
じっくり握りの味を考察していたら、たかさんが、
「あと二かんつまむとして、どれがいいか時間を空けて考えてみれば」
さて、近くの浅川で少し時間つぶしをして、ふたたびのれんをくぐって、浮かんできたのはレンコだった。
「レンコ、二かんね」
この二かんがとてもきれい。じっくり味わうと皮に甘味があり、上品な白身ながらうま味が舌に広がる。すし飯との馴染みも申し分がない。
「あれ、あれ、意外だな。ゴージャスの正体はお前だったのか」
「やっとわかったのかい」
今年の五月はよかった。「六月もよい月でありますように」。ふと、たかさんを見ると、またパチンコ屋の方を向き柏手を打っている。
「つまらないこと祈るんじゃない」
◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。
文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。
以上の記事は「つり丸」2015年6月15日号の掲載情報です。
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