MENU
沖釣り専門誌『つり丸』が徹底取材した釣果、釣り方、仕掛け、タックル、魚の生態、グルメコラムを中心に配信する釣り情報サイト
「イサキ」の寿司…大イサキの中巻きは実にゴージャスな味であった

「イサキ」の寿司…大イサキの中巻きは実にゴージャスな味であった

「梅雨って好きなのよね。女性がみんなきれいに見える」。たかさんなかなかいいことを言う。梅雨というとマイナスイメージだけど、森の木々も、雨の中で咲く花も冴え冴えとして美しい。梅雨の水を飲んでうまくなる魚も多い。産卵期を迎えたイサキがそうだ。大イサキの腹から出て来た白子を煮て、たまには甲州のワイン。

perm_media 《画像ギャラリー》「イサキ」の寿司…大イサキの中巻きは実にゴージャスな味であったの画像をチェック! navigate_next

大イサキの中巻きは実にゴージャスな味であった。思わずラテンミュージックで踊り出したくなるほどにうまい!

ある朝、たかさんが、ご近所のすし店のMさんと話し込んでいた。

「こっちゃー釣りしねーし。持ち込みはお断りしてるしさ」

たかさんが、うなずきながら聞いている。ボクにもお茶をくれて、

「なんせ、仕入れたことのねー魚だろ。すし屋ってのは昔から磯の魚は使わねーって習ったわけよ」

Mさんの店は、多摩地区でも古い商店街にある昔ながらのすし店である。カウンターに座ると、まずはマグロにこはだ、イカに青柳という江戸前ずしの基本ネタが出てくる。今なら麦イカの「煮いか」などという昔ながらのネタにも出合える。

さて、ふたりの話題の主がイサキだったのだ。Mさんの店で宴会があり、お客が釣ったというイサキを数本持ち込んで来た。原則持ち込みお断りだが、世話になっている方だったので、仕方なく料理をした。

「イサキっていやー塩焼きかせいぜい煮つけよ。刺身なんて初めてだし、つけたのも初めてよ」

それで『市場寿司』のネタケースをのぞきに来たらしい。

「驚いたねー。これも、これも」

「イサキだよ。毎日勝手に持ち込んでくる変な肥満体がいるのよ」

なにが「肥満体」だ。話を要約すると、Mさん、初めて食べたイサキの刺身と握りに感激したらしい。

「イサキを使う店増えてますよ」

Mさんの前と、ボクの前にイサキの握りがきた。血合いが鮮やかな赤で見た目にもきれいだ。

「これは昨日、(市場の釣り名人)福さんが持って来た縞ありだよ」

縞模様ありだから、小振りだ。でも脂がのり、その脂からくる甘味と、水温が上がって活発にエサを飽食した挙げ句、栄養の行き渡った身だからこそのみなぎるような弾力というか、歯に感じる抵抗感がすごい。

「たかさん、値千金の味だよこれ」

「そうか? じゃあこれはどうだ」

血合いの色がどこかしら鈍いが、切り口に透明感が残っている。

「これって、この前持ってきた鹿児島産かな。一・三キロあったよね。相模湾にも昔、こんなのいたけどね。もういないんじゃないかな」

カウンターの隅の常連さんが、

「たぶんまだいますよ。私、来週は下田なんです。もっと大きいの釣ってきますから。たかさんよろしく」

口に放り込むと、表面がトロッととろけて甘い。味わいに深みがある。三日目なので身が柔らかく、すし飯との馴染みも抜群によく、喉にすーっと消えてなくなる。三かん立て続けにつまんでもまったくイヤミがない。これぞまさしく横綱級の味だ。

「こりゃー養殖カンパ(チ)より遙かにうめーな。ここらは昔、魚が貨車で来たところなんで、ネタなんかも保守的になっちまうんだな」

「え、Mさんって貨車の時代知ってるの。ってことは何歳?」

「来年八十。あんたより若かろう」

「六十代に見えます。この前、店の前で腕立て伏せしてましたよね」

「肥満体には無理だね」

イサキという魚は面白い。ブリやヒラマサは鮮度がよすぎると身がゴリゴリするが、イサキはどんなに鮮度がよくても身はしっとりとして、食感も心地よいのだ。サイズでの味の違いもブリほどではない。秋の瓜坊だっておいしいのだ。

相模湾産の小振りイサキと鹿児島県産の大イサキと交互に食べてみた。「どっちもいい」と思った。

八十路のMさんは「やっぱり大きい方だな。味も大だ」と言う。

ボクはかなり腹が減っていたので、大イサキの中巻きをお願いした。

これが実にゴージャスな味であった。思わずラテンミュージックで踊り出したくなるほどにうまい!

「あれ、糖質ダイエット中だよな」

「大丈夫。腕立て伏せ百回やる!」

イサキ(スズキ目イサキ科イサキ属)

宮城県・新潟県から南は屋久島周辺の浅い岩礁域に生息している。
一般的には30㎝前後の小型魚だが鹿児島県では2㎏以上も珍しくない。ときどき3㎏が上がるという。幼魚、若魚のときには縞模様があるが、大きくなるに従い模様が消えて、黒一色の体色になる。また体長が長くなるのではなく、成長とともに体高が高くなる魚でもある。2㎏以上ありそうな個体はメジナのような姿をしている。
標準和名は東京での呼び名だが「いさぎ」と呼ぶ人もいたと魚類学の父、田中茂穂は書いている。全国的にも語尾が「き」ではなく「ぎ」と濁音になる方が多い。和歌山県田辺での「かじやごろし」は骨が硬くて、骨をのどに刺すと危険という意味合いだろう。麦の刈り入れ時期(梅雨前)から味がよくなるので「むぎわらいさき」とも呼ぶ。
夏に値を上げる魚だが、漁獲量も増えるので高級魚とは言えそうにない。全長30㎝前後、400gの平均的なサイズでキロあたり卸値が1500円前後だから1尾卸値600円ほどだ。これが重さ1㎏を超えるとぐんと値を上げて1㎏あたり卸値3000円くらいはする。もしも1㎏級を釣り上げたら1尾3000円だと思っていい。

◆協力『市場寿司 たか』
八王子市北野八王子綜合卸売センター内の寿司店。店主の渡辺隆之さんは寿司職人歴40年近いベテラン。ネタの評価では毎日のようにぼうずコンニャクとこのようなやりとりをしている。本文の内容はほとんど実話です。

文責/ぼうずコンニャク
魚貝研究家、そして寿司ネタ研究家。へぼ釣り師でもある。どんな魚も寿司ネタにして食べてみて「寿司飯と合わせたときの魚の旨さ」を研究している。目標は1000種類の寿司を食べること。HP『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』も要チェック。

以上の記事は「つり丸」2017年7月1日号の掲載情報です。

関連記事
ある日『市場寿司』でたかさんが「オーブントースターで温めて食べてね♪」とお土産をくれた。「なあに?」と聞くと「鮹さんが釣ったタコの頭で作ったタコ焼きだよ」だった。さっそく鮹さんが釣ったタコの頭で作ったタコ焼きでビールを飲んだ。さすがに明石のタコの頭で作ったタコ焼きはうまい。「鮹さん、またタコ釣ってきて」。
別れの後には出会いが来る。出会い月、四月にはどんな人に出会えるのだろう。あちこちにいろんな花が咲き乱れている。桜満開とともに心浮き浮き。考えてみると、相模湾のマルイカは「桜いか」なのである。この春のイカで飲む日本酒がうまい。今年の花見はマルイカの刺身をたっぷり、それと煮イカに、炊き込みご飯。
スルメイカは雌が大きくて、ヤリイカは雄が大きくなる。スルメの雌は下町の気のいい小太りのおっかさんで、ヤリの雌は例えばシロガネーゼって感じ。嫁にするならエプロンの似合うスルメイカタイプか、ブランド服の似合うヤリイカタイプか? ボクはヤリイカなんだけど幸せになれそうにないなー。
震災から三年近く経とうという師走、被災地に行ってきた。行くと人生観変わるよ、と言われたが、その通り。ボクも被災地の復旧に貢献しなくてはと思い。被災地を見て、悲しくもなったが、それ以上に元気をもらったようである。さて、そんな暮れの夜の酒肴は最近忘れられた感のある被災地、茨城県のマダイのあらの煮つけ。
朝方、あまりの寒さに目が覚めて、ベランダの温度計を見たら摂氏四度。寒いはずだと半天をはおり、七輪を出してきて、お餅の今期初食い。近所の酒屋さんで、ひやおろしの酒を買い、燗酒を今期初飲み。今年も師走が目の前に来たのだな、と燗酒をあおり、肴は「そげ」の昆布締めである。
最新記事
アカナマダ(アカマンボウ目アカナマダ科アカナマダ)たぶん国内で発見された個体数はそんなに多くない。しかもほとんどが浜に打ち上げられた個体である。
大きなブリやマグロに輸送に最適な保冷バッグ「保冷トライアングル」鰤バッグ/鮪バッグ
4月に解禁した大物釣りの聖地、銭洲。今期も良型シマアジが絶好調!シマアジ&カンパチ、五目で高級魚がザックザク。伊豆遠征シーズンを満喫しょう!
「梅雨イサキ」が最盛期を迎える。主役をヤリイカからバトンタッチ!いきなり数釣り好調スタート!終始入れ食いで早揚がりでも満足釣果!
つり丸ちゃんねる
船宿一覧

ランキング

総合ランキングarrow_right_alt

新型コロナウイルス
つり丸編集部の取り組み

つり丸船宿一覧
つり丸定期購読
get_app
ダウンロードする
キャンセル